遥か夢
□お腹
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「わっ!ど、どうしたんだい!?」
目の前の腹におもいきり抱きついた。
頭上から情けない声が「名無しさんちゃ〜ん……」なんて言ってくるがそんなの無視だ。
「ねえ、もしかして、なんかあったの?」
「うるさい、今忙しいんです」
ついでにしつこいなんて言ってみたらやっぱり景時さんはしょぼんと肩を落とした。素直に「ごめん……」なんて言ってくる姿もかわいらしい。下手すると女の私よりもはるかに。
かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい……
……確かにそうだが、いかんせん私が今求めているのは可愛らしさではなくその「お腹」。
と言うよりも……
「私、今景時さんの体に夢中なんです」
「っ!」
景時さんの顔が一気に赤くなった。
……何か赤くなられることを言っただろうか?
自分の言葉を反芻してみた。
『私、今景時さんの体に夢中なんです』
ん?
あれ、これってかなりの誘い文句なんじゃないか?
たらり、と背中を冷たい汗が流れ落ちた。
「そ、そんなこと言われちゃったら俺、頑張らないといけない気分になってきちゃったよ……」
「頑張らなくていいです、ここにいてくれるだけで」
いやまぎれもなく本心だ。
嘘なんて言っていない。
というかじっとしていてくれなければ困る。
お腹を堪能できない。