遥か夢

□苦手な人4
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「……すまない」


「……?」
「……私はいつも君を泣かせているね……」


涙嫌いだったはずだ。
それなのに彼女の涙は美しいと、愛しいと思う。

……愛しい。

彼女の頬を伝うその雫が。

涙を流しながらも無様に泣きはすまいと嗚咽を堪え震えるその肩が。

口元を押さえるその小さな手が。

私を見つめるその瞳が。

すべて。

腕の中に抱えてしまいたかったが、それをすると彼女の顔を見ることができない。

諦め横抱きに抱えるようにする。

……諦観を漂わせされるがままに抵抗もしないその姿に胸が痛んだ。

最後だと、そう思っているのだろうか?

そんなこと、させはしない。


「君が好きだよ……」


いつものように戯れごとではなく。

閨のお約束のように求められたものではなく。

まぎれもなくこの私の本心。

胸の中に燃え盛る熱い思い。

「?」

しかし彼女は涙に濡れた頬できょとんと私を見上げる。

……遅いなんて言わせない。

もう遅すぎるなんて、絶対に言わせない。

「君のことが好きなんだよ……本当にすまなかった……」

「は?はああ?」

目の前でぽかんと口を開けるこの少女が愛しいのだ。

涙を掬うように唇を当てて吸い取った。続いて頬に口づけを落とす。

……唇にしたわけでもないのにずいぶん甘く、満ち足りた気分にさせられた。

名無しさんの顔がぼぼぼっと赤くなる。

そんな顔をさせているのが自分だということが嬉しくて、にやける顔を押さえながらあちこちに口づけた。


「どこにもいかないでおくれ」
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