遥か夢

□苦手な人4
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「……名無しさん殿」



小さな肩がぴくりと跳ねた。



こちらを向かずに小さくなる少女に後悔の念が募る。

あんなに怯えるほどのことをしてしまった。

「こちらを向いてはくれまいか?」

無理だとは思いながらも一縷の望みをかけてそう問いかける。


「……明日」


「…………うん?」

「明日、出ていきますから……」

「……なんのことだい?」

顔が険しくなる。何を言い出すのか。

「行くあてなどないだろうに」

つい吐き捨てるように言ってしまい、しまったと口を押さえた。

「……なんとかなります」
「……」

なんとか?

なんとかなるというのはこの少女の口癖だったか。


「?」


おかしい。

彼女の口癖。

ここではおかしい、しかしいつもの口癖。


「っ」


はっと気付く。

……まさかこれは、強がりなのか。

「……名無しさん殿」

何も、見ていなかった。

私は、何も見ていなかったのか。

ぎゅっと手を握りこむ。

他の者達の方が彼女のことを見ていたということに、反省よりも嫉妬の方が募ってしまう自分の愚かさに反吐が出そうだ。

こんなこと、自分が一番早くに気づけても良さそうなものなのに。
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