遥か夢
□苦手な人3
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酒を注いで喉に流す。
まさに言葉通りの作業だった。
飲んでも飲んでも酔えやしない。
飲むのではなく流す。
喉を潤すというのでもなく。
「友雅殿?」
「……鷹通か」
なんだい、と問う声も素面のまま。いつもならこれほど飲めば少しはほろ酔いで気分良くなるというのに。
あの少女のせいか。
舌打ちしかけそれを止めるかのようにまた酒を流し込む。
「……なんて飲み方をしているのですか、それでは酒がもったいない」
もっともな物言いにくすりと笑いが漏れ出る。
「……そうだね。君も、一杯いかがかな?」
「いただきましょう」
ちらと鷹通が隣に座るのを確認して、ぱらりと扇を開いた。
……その銀の扇の面に一枚の花弁が舞い落ちる。
「……おや、ずいぶん風流ではないか」
常なら和歌でも詠むところだがそんな気分になれずに柱に身を預けた。
……頭上に輝く真白き月が煩わしい。
「何をそんなにいらついているのですか、友雅殿」
「……君は何か知っているのではあるまいか?この、私の身の内に巣食う苛立ちの理由を……」
ちらと視線を投げると、鷹通は酒を飲むときすら崩さない姿勢を少し崩して見せた。