遥か夢
□猫というには愛しくて
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「……」
「こら。どこに行くの?」
そっと離れようとした瞬間に押さえつけられてしまって、私はふたたびそこに頭を下ろした。
「…だって、邪魔だろうと思って…」
「君が私のひざに頭をのせているのが?」
「はぁ…」
たしかに体調が悪いから寝ていると言った。
でもこれは寝方が違うだろうと思うのだ。
「邪魔だっていうなら、君が私の側にいないことの方がずっと邪魔だよ。気になって煩わしくて仕方がない。だからここにいなさい。いいね?」
「…はい」
この人に口で勝てる日ってくるのかなー…?
私は大人しくうなづいて目を閉じた。
でもふわりと髪をなでる感触にまた目を開ける。
「…小松さん?」
「何?」
「…髪」
「撫でられるの、嫌かい?」
「いいえ。…気持ちいい、です」
「そう? ならいいじゃない。大人しく撫でられていなよ」
「……」
なんだか猫になった気分。
「……ご主人様のひざの上に乗って、毛を梳いてもらってる猫の気分です」
「猫?」
「はい。……すごく、気持ちいい……」
すぅっと意識が暗く沈みこんでいくのを感じながら私はその手の感触を感じていた。
「……何それ」
口元に手をあてて自分のひざの上で眠る少女を見やる。
気持ちよさげに目を閉じて眠っている。
「……不意打ちだよ。君って子は……ほんと、適わないな」
でもそれすらも愛しいと思ってしまう。
それほど自分は彼女に溺れているのだろう。
「……おやすみ。いい夢を」
2011/4/10