遥か夢
□うっとうしい!
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「うわー……魔王様」
長くて黒いマントをばさりとさせたその男に私はぽつりとつぶやいた。
「顔も悪役顔だよね」
「……貴様、なんの話だ?」
眉間にしわを寄せる高杉さんに、周りのみんなが……特にチナミあたりがはらはらしているのを肌で感じながら、私は高杉さんの前髪をえいっと引っぱった。
「……」
「痛いなら痛いって言えばー?」
「……我慢できぬ痛みではない」
「そうですか」
このやせ我慢っこめ。
「やっぱ前髪うっとうしいなぁ……ねぇ切らない?」
「しつこいぞ。切らん」
「えー? ……ケチ」
「……」
ああ、でもちょっとずつこの人の性格がわかってきたかも。
今だって黙りこんでむっつりしてるけど、別に不機嫌じゃないんだ。悪役顔だけど、実はすっごく真面目っこでこの国の…自分の志のためにがんばってて……
「……えらいなぁ」
「今度はなんだ?」
「うん? 高杉さんってえらいなぁと思って」
にこ、と笑うと間近でその瞳が驚きの色に変わるのが分かった。
変なこと言ったかな?
「高杉さん?」
「……お前は不思議なやつだ」
「なんでよ?」
「俺のことをえらいという。怖がることもしない。不思議……というか変なやつだな」
「失礼なっ! ……高杉さんってけっこうむっつり助平なとこがあるよね?」
「な……っ! なぜ俺がそんな風に言われるんだ!? 訂正しろ!」
「やだ。ゆきのこと、「可憐で清く美しい龍神の神子」なんて風に思ってるんでしょ? 悪役顔なくせに、むっつり」
「……いい覚悟だな」
「……あれ?」
なんか……高杉さんの頬がぴくぴくしてる?
…もしかしてからかいすぎた?
「……あー、晋作。ちょっと落ち着けって!」
「放っておきなよ、龍馬」
「えと、高杉さん? 私、ちょっと悪ふざけがすぎたかなーとか思ってます……ごめんなさ……!」
「謝罪はいらん。もう遅い」
「えっ!!?」
あれ!?
なんか視界が高いんだけど!?
「……蓮水」
「は、はいっ」
「一室借りる」
「えっと……どうぞ?」
「助かる」
私を肩に抱きあげたまま高杉さんはどんどん家の奥へと入っていって……え、まずい?
やばい? 貞操の危機?
「ちょ……! 瞬、助けて!」
「……自業自得だ」
「この、はくじょうものーーーー!」
「……名無しさんも、やめておけばいいのに」
「あー。まぁ、仲が進展することを思えば、いいんじゃないか?」
「正直じれったくて仕方がなかったからね。……時間がかかるだろうから、私たちは私たちで好きに過ごそうか」
「じ、時間が…かかる、とは……! ……っ!」
「……チナミ、顔が赤いですよ?」
「な、なんでもない!」
「『バカバカしい』。ゆき、アルバムでも見せてももらえませんか?」
「アルバム? うん、わかった。取ってくるね」
「いいえ。ぜひともあなたの部屋で。……ここは静かではなくなりそうですから」
「私も行く。ゆきとお前を二人きりにはできないし、私もここにはいたくないからな」
「……俺も行きましょう」
「…俺も」
「私も」
「……私も」