遥か夢

□仮面夫婦・景時
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「……」




「……よろしく、お願いいたします」




 ドキドキする。



 なんでこんなことになったんだ、って思うけど……おつとめは、果たさなくちゃいけないから。







「……ああ、うん。……あの、名無しさん殿」




「……殿なんて……名無しさんで大丈夫です」




 慣れないし、背中がこそばゆい。




「そう? じゃあ、名無しさん」



「! はい」



「寝ようか」



「は、はい……」

 おいで、と手をとられて褥に寝かされる。
 心臓がもう破れてしまいそうだ……。




「ん。じゃあ灯り、消すね」




「……」



「……」



「……?」



 ゆったりと私を抱きしめて目を閉じた景時さんに、私は首をかしげた。




「景時、様?」




「なあに? ああ……オレのことは様なんてつけないでいいよ」




「……しないんですか?」



「え?」




「えっと、その……」




 顔が徐々に熱を孕んでいく。



 ……もしかして、私ばっかりがそんな風に思ってた?

 それはそれで恥ずかしい。






「……ねえ」





「は、はいっ?」




「オレはね、君のことをよく知らない」




「……」




「でもね、せっかく夫婦になったんだから、知っていきたいと思う」




「景時、さん」



 息がかかりそうなほどの距離で景時さんが緑の瞳をそっとやわらげた。



 
「そういうことは、時間をかけてもいいんじゃないかな、と思って。時間はたっぷりあるんだしね」





「……はい」





 今晩は何もない。
 そう分かったと同時に身体から一気に力がぬけた。



 ああ、私、緊張してたんだ……。




「おやすみ、名無しさん」




「……おやすみなさい、景時さん」




 もしかしたらこの人は、私の緊張も見抜いていたのかもしれない。



 そんな風に思いながら私は目を閉じた。


2011/02/19.
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