遥か夢

□仮面夫婦・序章
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「どこなの、ここ……」







 森の中をさっきからぐるぐると歩きまわっているけれど、人間らしきものとまったく出会えない。






 そろそろ立っているのが限界なんだけど、と思っているとどこからか微かなうめき声が聞こえてきた。



「ん?」



 誰だろう……。
 妖しい人かもしれない。でも人に会えるだけマシかも。




 そう思って私は声のする方へと急いだ。














 ああ、来るんじゃなかった。



 それが本音だったんだけど、関わってしまったからには仕方がないと思って人助けをしたのがそもそもの間違いだったんだ。 








「頼朝様を助けてくれたお礼に、いいものを差し上げますわ」






 女狐様に美しい笑顔を見せられてもまったく嬉しくない。怖いけど丁重にお断りしよう。




「いえ、けっこう……」







「ね。にんじんと、青菜とはちみつ。どれがお好みでして?」










「……」



 人の話聞いてないでしょう?

 てゆかなんだよその三択。
 くれるんだっけ?

 その三択なら無害そうだし……私は少し迷ってから答えを出した。



















「……」




 目の前で私達にむかって頭を下げる男性に私はめまいがした。




 一体なんだってこんなことに?




 どんな話がどんな風に転がればこんな結果になるのだろうか。




「今日は本当によいお日柄ね。私達の娘の晴れの日に相応しいわ。ねえ、頼朝様」




「ああ。まさしく、な」




「……」



 あなた達は楽しそうですね、いつも。




「くれぐれも、かわいいこの子を頼みましたよ?」



「はっ」




 ……うぅ。


 政子様の正体を知らなければこんな話し断ったのに……。


 怖くて逆らえないよ……。



「名無しさん。あなたもご挨拶なさい」



「……名無しさん、と申します。不束者ではございますが末長くよろしくお願いいたします」

 ちゃんと三つ指をついて頭をさげた。












 
 トリップから一週間。
 嫁入りして旦那様ができました。
  

2011/02/19.
 

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