乙女ゲーム夢2
□別人みたいな
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「信じられない……君の婚約者、ほんとに僕の兄さんかな?」
怪訝な顔をするラウルさんに私はにこにこと答えた。
「フィリップさんはすごく優しい人ですよ」
「いや人あたりがいいのは知ってるけど……」
「私が読みたいと言っていた本をプレゼントしてくれたり、見たいと言っていた観劇に連れて行ってくれたり、あと……お恥ずかしいことに雷が怖いんですけど、いつも空模様が怪しくなったら私のところに来てくれるんです」
「ええ!? 雷が鳴るかもしれないってだけで?」
「はい。申し訳ないんですけど、その気遣いがとてもうれしくて」
ラウルさんが淹れてくれた紅茶をおいしくいただきながらそう言うと、彼は驚いた顔を隠さずにもう一度呟いた。
「すごいや……信じられない」
「そうですか?」
「うん。だって僕の知ってる兄さんはシャニー家が一番で、家長だから時にひどく酷薄に物事を考えて必要のないものは切り捨てていく人だったから……婚約だって……」
政略的な思惑しかなかったと。そう思っていたのに。
「はー……もしかしてすごいのは君かもしれないね」
「私、ですか?」
きょとんとしてどういう意味かを尋ねようとしたその時、乱れた足音が近づいてきたと思ったら少し乱雑に扉がノックされた。
「はい」
「失礼。名無しさんが来ているとうかがったものでね」
「兄さん」
「フィリップさん!」
何日かぶりに見た彼の姿に嬉しくなってぱっと席を立った。
近寄ったと同時にぐっと手首を掴まれた。
「?」
「ラウル、彼女が世話をかけたね」
「え? ううん、ぜんぜ……」
「ではまた後程」
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