遙か夢参
□遠回り
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「お嬢!」
特別な響きを持って呼ばれるその言葉はいつだってお姉ちゃんを差していて、力強く優しいその声に返事が出来るのはいつだってお姉ちゃんだった。
「あ…ごめんね、瞬兄。龍馬さんも」
おっとりとそう言って謝るお姉ちゃんの声を聞きながら、私は口を尖らせてそっぽを向いた。
「お姉ちゃん、もう少ししっかりしてくれたらいいのに。天然で放っておけないし、ぼうっとしてるからトラブルに巻き込まれやすいんだもの・・・・・・」
「いや、お前がそれを言うのか?」
「うん?」
「・・・・・・名無しさんのかわいいところは、自覚がないところだよなぁ」
どこかがくりと肩を落とした都。
それが不思議で首を傾げつつ、隣に立っていたチナミくんを見上げた。
「都の言ってる意味、分かる?」
「ああ……まぁ、その。名無しさんも身の周りには気をつけろということだ」
苦笑してぎこちなく私の頭を撫でたチナミくんに微笑みかける。
「チナミくん、お兄ちゃんみたいだね」
「な……っ!」
都も瞬兄も結局はお姉ちゃんに構うことの方が多かったから、なんとなくそういう風に気遣ってくれる存在が新鮮で嬉しい。
そうは思ってもやっぱり気になるのは少し離れた場所にいる三人組で。
「ゆき、あなたはもう少し身の回りに注意した方がいい」
「まぁまぁ、瞬。お嬢は少し気が抜けているくらいがかわいいんだろう」
「かわいさよりも身の安全の方が大事だろう」
「まぁそうなんだがなぁ…」
ぐ、と拳を握りしめる。
天然で放っておけなくて、でも自分の意志は強く凛とした美しい人。
そんな人に適うわけがないんだ、と私はいつだって心のどこかで諦めているんだ。
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