乙女ゲーム夢3
□そっくりなだけで
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「こりゃ驚いた。百合子さんにそっくりだな」
画面越しに恋をしていた人にそう言って見つめられて、私は自分の胸が震えるのを感じた。
「ここの菓子はどうだ? うまいだろう」
「ええ。美味しいです」
頷けば嬉しそうに頷いてくれる斯波さんに、胸がどきりと高鳴った。
彼は私に百合子の面影を見ているだけなのに。
この世界に来れたこと自体に喜べばいいのか、それともどうして百合子と全く同じ見た目なのだと悲しめばいいのか。
どれほど斯波さんに心惹かれようとも、彼を好きになってはいけないのに。
「…美味しい、というわりにはあまり顔が浮かばないな。どうした?」
「いえ。……斯波さんは、百合子姉様と仲良くなりたいのでしょ? なら私に構わず百合子姉様をお誘いするべきだわ。断られて妹の私を誘うなんて、百合子姉様に誤解されるわよ」
八つ当たりするようにそう言ってぷいっと顔を背けると、斯波さんはぽりぽりと自分の頬をかいた。
「・・・・・・名無しさんさん、あなたは嫉妬しているのか?」
「っ!」
核心を言い当てられてかっと頬に血が上った。
「なるほどな。いいことを聞いた」
「な、なに……っ」
席をたって私の座っているソファの肘掛けに腰掛けると、斯波さんは私の手を持ち上げて指先にキスを落とした。
「まさかあなたがそれほど俺を好きだったとは。予想を裏切られて俺は嬉しい」
「馬鹿にして……っ!」
からかうような口調に怒ろうとしたのに、素早く唇を重ねられて言葉を封じられた。
「ん、んく……っ」
背筋を這い上がるぞくぞくしたものに体を震わせると、斯波さんが唇を離してにやりと笑った。
「安心してくれ。俺が見ているのはずっと百合子さんじゃなくてあなただよ、名無しさんさん。ずっとこの甘い砂糖菓子のような唇に触れたくてたまらなかったんだ」
2012/9/15