その他夢
□小猿と鬼教官の恋物語6
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「王子様って呼ばれる気分はどうだい、堂上?」
「……うるさいぞ、小牧」
「ふふ……すごく美化されてるよねー、笠原さんの中の「王子様」。面接でその話を聞いた時はどれほど笑えたか」
「……」
「ああ、ごめんごめん。でさ、本題なんだけど……」
え、あれ?
いまのって……どういう意味だろう?
停止した思考で私はうつむいたまま地面を睨みつけた。
遠ざかって行く足音を聞きながらさっきの話を頭の中で整理する。
「あ」
わかった。
ぽんと手を打つ。なんだかすっきりした。
郁が大好きで尊敬してる王子様は……堂上教官その人なんだ。
そう気づいた瞬間、血の気が下がるのを感じた。
なんで……おかしい。どうして私はこんなにショックを受けてるんだろう?
郁は王子様の顔も覚えてなくて名前も知らない。
だからどの人なのかわからない。
でも最近、王子様と同じくらい堂上教官を尊敬してる郁を知ってる。
郁は……堂上教官に心惹かれてる?
そしておそらく……堂上教官も。
だって、いつだって郁のピンチに駆けつけてくれる。
いつだって、どんな時だって。
それは、その姿は、まさに「王子様」で。
「そ、うなんだ……」
あの二人はいずれ両想いになるんだろう。
「……名無し? 何して……どうかしたのか?」
「手塚くん?」
慌てて私に近寄ってきた手塚くんがすっとハンカチを差し出した。
「? なに……」
「何があったかは知らないけど、拭けよ」
頬にそのハンカチを押し付けられて初めて私は自分が涙を流していることに気が付いた。
「……っ」
気づくとぶわりとさらに涙が溢れる。
「う……っ」
女の涙に弱いのか、それとも小さな体のせいで子供を泣かせたような気分になるのか。
心底困った手塚くんの気配を感じながら私は彼の服をぐっと掴んだ。
「て、づかくん……!」
「……どうしたんだよ、一体。お前らしくないぞ」
躊躇いながら頭の後ろに乗せられた手。
大きな手。
でもそれは、見知ったものじゃない。
ああ、そうか……私……。
「しつれん、しちゃった……」
「はぁ!?」
「しつれんしちゃったよ……っ!」
――――堂上教官が好きなんだ。
たかだか失恋くらいで、と思う。
でも寂しいと伸ばした手を掴んでくれたのはあの人だった。
帰る場所になってやると、言ってくれたのはあの人だった。
いつだって折れそうな、崩れそうな心を救ってもらった。
世話好きだから、私があの人の大切な部下だから。
わんわんと泣き喚く私を、不器用な手塚くんは黙って隣にい続けるということで宥めてくれた。
時折頭を撫でる大きな手が余計に涙を誘っただなんて、申し訳なくて言えないけど。
2012/5/20