その他夢

□片想いとは
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私にとって彼らはかけがえのないものだった。




いつだって手を伸ばせば掴んでくれる。
いつだって受け入れてくれる。



そんなものだと自惚れていた。














空が不穏な動きを見せていた。



紅家に引き取ってもらって何週間たったのだろう。



何の記憶もない私を、どこの誰とも知れない私を引き取ってくれた父様。かわいい秀麗。家人の静蘭。彼らが自分の家族になって私は嬉しかった。




今まで誰にも必要とされたことがなかったから。




記憶がないながらも微かに思い出すのは怒鳴りつける男の声。全身に感じる痛み。













「…かみなり」



まずい、と思った。


私は雷が苦手だ。というより怖い。


でも秀麗も苦手だと言っていた。一緒だねと顔を見合わせて照れながら笑ったのは記憶に新しい。




行かなければ、と思った。



私は雷が怖い。
秀麗も雷が怖い。



独りだとどうしようもなく怖いけど、二人でより添えば怖くなくなるんじゃないかと思った。




ぽつぽつと土の上に染みが出来て、すぐに大粒の雨が降り出した。



早く、と思って私は部屋を飛び出した。



本当だったら布団の中に引きこもりたい。







でも秀麗が―――秀麗が待ってる。




ぴかりと空が光った。



次いで響いた大きな雷の音に私が青ざめ震えあがった。



でも。



つんざく悲鳴にはっとする。




震える足を叱咤して私は秀麗の元へと走った。







「しゅ……」

泣きながら、秀麗の部屋にたどり着いた私が見たのは、静蘭に抱き着く秀麗の姿。





「大丈夫ですよ、お嬢様」





しっかりと秀麗を抱きしめてなだめるように背中をさする静蘭。





秀麗の腕は離すまいとばかりに静蘭の背中に回されている。










ああ、と思った。








私が入る隙間はない。



私をなだめてくれる腕も、私と恐怖を分かち合う人も、ここにはいない。











そこにはそれまでの生活で完成された習慣があった。


そこには異分子は入り込めなかった。





怖いと素直に手を伸ばせば掴んでくれるだろう。



でもそこまでしてこの習慣を壊す必要はあるのだろうか。



そんなことをしてはいけない。







そんなことをするのは――――罪だ。






異分子が立ち去ればいい。私がそこに入らなければこの習慣はこれからもずっと秀麗が雷への恐怖を克服するまで続いていくのだろう。




涙が頬を伝った。












きっとわがままなのだ。





寂しいと手を伸ばす前に気づいてほしいだなんて。


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