その他夢
□心配
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「ナル!」
ベースに少女の怒鳴り声が響いた。
なんだなんだと集まってくる面々に目もくれず、当事者の二人は険悪な雰囲気を醸し出していた。
「どうしてそんな無茶ばかりするのっ?」
「無茶なんてしていない」
「嘘!」
「どうしてお前に嘘だと決めつけられなくてはいけないんだ」
「ほんとのことだもの!」
「……普段は怒らんお嬢さんが今日はえらくご立腹だな、リン」
「ええ。ナルが寝ていないことがバレたそうです」
「ほー? それであんなに怒ってくれてる、と」
「ナルはいつだってそうじゃない!? 私の気持ちなんてかけらも考えてないっ! 没頭しはじめたらずっとそればかりで」
「……僕は調査をするためにここにいるんだ。それを責められるとは心外ですね」
く、と嫌みのように笑うナルに少女の眉間に余計にしわがよる。
「屁理屈ばっかり」
「屁理屈でもけっこう。大体、僕のことは放っておいてくれていい。体調管理も自分でしている。こんな風にわざわざ言われるほどのことじゃない。わかったら作業に戻らせてくれ」
「……言いたいことはそれだけ?」
「? ああ」
何かを怒鳴ろうと名無しさんは大きく口を開けた。
だが。
「名無しさんさんは渋谷さんのことがすごく心配なんやですね」
「……」
にこりと邪気のない顔でそう言ったジョンに名無しさんもナルも毒気を抜かれたようにぽかんとした。
「違いましたか? 寝てはらへん渋谷さんが体壊すんやないかって、名無しさんさんは心配してるんですよね」
「う……」
「わ! わわわ……っ! どないしたんですか? 僕、なんや変なこと言ってしまったやろか?」
「ちが……っ! ありがと、ジョン…っ」
ぼろぼろと涙を流してお礼を言う名無しさんにジョンがおろおろとあわてた。その様子をバツが悪そうに見て、ナルは椅子から立ち上がった。
「……名無しさん」
「……くっ」
しゃくりあげる名無しさんの肩を抱き寄せ、ナルはその泣き顔をみんなから見えないように隠すとすたすたと歩きだした。泣いている名無しさんは何事かと思いながらそれについていく。
「仮眠をとってくる」
「おい、ナル坊! わざわざ嬢ちゃんを連れて行くこたねぇんじゃねーの?」
「何か問題が?」
「いやだから」
「僕は名無しさんがいないと眠れない」
きわどい捨て台詞を残して、ナルは別室へと入っていった。
「……」
「……」
「……リンさんや」
「……なんでしょう」
「あいつの育て方間違ったんじゃねぇの?」
「……私に言わないでください」
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