その他夢
□君が好き
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「ナル……麻衣にひどいこと言ったでしょ?」
今朝目を赤くはらしていた麻衣のことを思い出して、私は口をとがらせた。
「事実を言ったまでだが」
パソコンの前に座りながらも何をしているわけでもないナルが淡々と返した。
「事実って……」
「同じ顔で性格のいい方と悪い方。どちらを選ぶかはわかりきっていると言ったまでだ」
「そっちじゃないよ! ……好きだったって言われて、嫌な答え方したでしょ」
「……僕が? ジーンが? そう聞いただけだが、それが嫌な答え方か?」
「っ! だから……! もっと言い方があるんじゃないの?」
ナルの冷たい口調に思わず声を荒げてしまった。それに対してナルが心外そうに眉間にしわを寄せる。
「言い方がどうであろうと真実だろう。麻衣は夢に出てくる僕に好意を抱いていた。だがそれは僕じゃない。ジーンだ。なら麻衣が好意を持っているのはジーンだということになる」
「だ、けど……」
「……お前は何が言いたいんだ。まさか僕に麻衣の勘違いの好意に応えろとでも言うんじゃないだろうな?」
「ちが……っ」
のどの奥で声がからまる。
……麻衣や真砂子がナルに好意を抱いているのがわかって、正直いい気分はしてなかった。でもだからってあんな言い方で麻衣を傷つけていいかっていうとそれは違う気がする。……ううん、違う……よくわからないけど、私が言いたいのはそういうことじゃなくって、もっとほかの……
「……それともお前も、ジーンの方がいいというのか」
「ナル……っ!」
感情を宿すことが少ない黒い瞳。
その奥に潜められた悲しげな色。
そんな目をしてほしくなくて、私はナルに抱き着いた。
「…そんなこと、思ってない」
「……」
「ジーンのことは好きだよ? だって長い間一緒にいたもの」
腕の中の体がぴくりと震えた。
「でも……ナルに対する好きとは種類が違うって、ナルもわかってるでしょ?」
「……知ってる」
「だったら……」
「だがお前があまりに麻衣のことを気に掛けるから、僕が麻衣の好意に応えることを望んでいるように思えた。……すまない。大人げなかった」
「ナル……」
「ジーンの方が人に好かれるのはわかっている」
「そんな言い方しないで! ジーンに良さがあるように、ナルにはナルの良さがあるでしょ?」
「……どうして泣くんだ」
「わかんない……っ! わかんないけど……っ」
切なくて……
麻衣も、ジーンも、ナルも……みんなみんな切なくて……。
どうしていいのかわからないんだ。
「ナルは……優しいよ」
「……」
「不器用なだけで……理論責めするからたまにかんちがいされるけど……ナルは、優しいよ」
涙をぼろぼろ流しながら言い募っていると、今までされるがままだったナルがそっと私の背中に手をまわした。
「名無しさんが知っているなら、それでいい」
「ナルは……自分のこと、ないがしろにするんだから……っ! 悲しくても辛くても痛くてもなんでもないような顔して何もなかったことにしちゃうから……っ! 私が、ちゃんと見張ってる……ジーンの代りにはなれないけど……」
「バカ」
背中にまわされた手にぎゅっと力が入った。
「……っ」
「僕は、名無しさんにそばにいてほしいんだ」
「ナル……っ」
……みんなみんなどうしてうまくいかないんだろう?
片思いは、恋は一人ででもできる。
けど……すごく、すごく……切ない。
麻衣はジーンのことが好きだったんだ。もしかすると、ジーンも麻衣のことを……そう思うと余計に悲しくて。切なくて。
「ナル……好き。好きだよ」
気持ちを相手に伝えられることが、とても幸せなことなんだ、って思う。
「……僕もだ」
腕の中のぬくもりが、ずっとずっと一緒にいてくれることを願って。
2011/9/20