遙か夢弐
□すきなひと
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私のお姉ちゃんはとってもキレイで素敵な人で。
同じ姉妹のはずなのに……どうしてこんなに違うんだろう?
大好きだけど、大嫌い。
お姉ちゃんは私のことを大切に思ってくれてるのにそんな風に思ってる自分が嫌で。
でも……。
大好きな幼馴染はやっぱりお姉ちゃんのことが好きで。
息が詰まりそうな毎日を送っていたある日。
渡り廊下で小さな男の子と出会った。
「私の……神子」
男の子がそうつぶやいたと同時に私たちは大きな川に足をすくわれて。
濁流の中、将臣くんともお姉ちゃんとも譲くんとも手を離してしまった。
自分がどうなってしまうかわからない不安の中、目が覚めた私を助けてくれたのは……。
「あ、景時さん? お洗濯終わったんですか?」
「名無しさんちゃん。終わったよ〜!
ん〜、いい天気! 気持ちいいね!」
「ほんとですね」
白い洗濯物が庭ではためく。
気持ちのいい風が吹いて、青い空を見上げると白い雲がゆったりと流れている。
……これから戦が始まるなんて嘘みたいだ。
私は一か月前この梶原景時さんに倒れているところを救ってもらった。
最初は龍神の神子なんてものと間違われたんだけど、そんなたいそうなものじゃないって主張して、神気もないから違うんだってわかってもらえて。
「……私が龍神の神子だったら」
「え?」
「……源氏の役に立てたのになぁ、と思って」
そんな伝説の神子になれるわけなんてないけど。
でも私を助けてくれた景時さんの役に立てたらよかったのに、くらいには思う。
そしたら……戦にもついていけるのに。
「……いいんだよ」
「え?」
「君は戦わなくていいんだ」
穏やかな悲しい笑みでそう言う景時さんに私は顔を曇らせる。
この人は戦いたくない人だ。
そして私と一緒で……ずっと劣等感を抱いている人。
景時さんはさっきの表情をうまく隠しておどけた様子をみせた。
「寂しいかもしれないけどさ、待っててよ! 絶対勝ってかえってくるからさ〜、オレにどーんとまっかせなさい!!」
「……景時さん」
「だからさ、オレたちが戻ってきたときに美味しいご飯と笑顔で出迎えてよ。ねっ?」
守られてばかりで申し訳なく思っている私に、存在意義を与えてくれる人。
私の好きな人は他の人のはずなのに……惹かれている自分がいるのもまた事実で。
惹かれてはいけないと思いながら、自分の心を押しとどめなくてもいいんじゃないかとも思い始めていた。
「……待ってますから、どうぞご無事で」
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