遙か夢弐
□約束
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「お前がオレを呼ぶなら、オレはいつでもお前の所に飛んでいくよ。かわいい姫君」
あの時の約束は、まだ有効ですか?
一人で市を見て回りながら私は今日の晩の食材を見極めていた。
だって新鮮なものを手に入れるのは自分の眼で見るのが一番だから。
そして満足のいくものを買えた。……買えたんだけど。
「……どうして一人で市になんて行ったんだ?」
私を出迎えてくれたのは不機嫌そうな熊野別当で。
「あ、あのね、今日……っ!」
「言い訳は聞かないよ。お前はオレの婚約者だっていう自覚があるわけ? いつ襲われてもおかしくない立場の人間が共も護衛もつけずに市をうろちょろと……救いようのない馬鹿だね!」
……そこまで言われる必要なくないっ!?
私の言い訳も聞かずに頭ごなしに怒られて、私はかっとなってしまった。
「うるさいなぁ……私が何しようと私の勝手じゃない!」
「!? その勝手が周りに迷惑かけるって言ってるんだよ!」
「私が市に行ったことで誰が迷惑被ったってのよ!?」
「被る可能性があったってことだけで十分なんだよ!」
「可能性ばっかり考えて動いてちゃ何もできないじゃない!?」
「……っ! もう、勝手にしろよ」
眉間にしわをよせたままヒノエが部屋から出て行った。
「はぁ、はぁ……っ!」
勢いのまま、感情のまま叫んでしまったせいで息が荒い。
でもヒノエがいなくなってはじめて言い過ぎたことに気づくももう遅い。
「……だって、ヒノエが今日ここに来るって聞いたから」
美味しいご飯を食べてほしかった。ただそれだけだったのに。
「……っ!」
あんなに頭ごなしに怒ること、ないじゃない。
彼が言ってることはとても正しいけれど。
あふれ出した涙を着物の袖で拭った。
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