もしもシリーズ
□もしも双熾が…
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「あなたの仕事は僕の身の回りの世話です」
雇主である家の主は、柔らかながらも有無を言わさない笑顔でそう言った。
掃除するのは部屋の中だけ。
料理も洗濯も出来るだけ部屋の中で。
部屋の外では違うメイドたちが清掃や料理を受け持つ。
私がするのは本当に、御狐神財閥の社長である双熾様のお世話だけ。
彼が部屋の中に入れるメイドは私だけ。
「ただいま帰りました」
「お、おかえりなさいませ! カバンをお持ちいたします」
私が彼を出迎えることができるのも部屋の入口。
玄関まで出ることは許されていない。
「ありがとう」
「!!? そ、そ、双熾様……っ!?」
ありがとうとは言いつつもカバンを持つべく伸ばした手を引っ張られてきゅっと抱きしめられてしまってわたわたしてしまった。
「・・・・・・あなたといると癒されますね」
はふ、と息をつく様子に胸が痛む。
社長という重責からいろいろ気苦労も絶えないことだろう。
「・・・・・・お疲れ様です」
そろりと腕をのばして背中を優しく叩くと双熾様が嬉しそうな顔で私を見下ろす。
その瞬間が、たまらなく愛しくて。
胸がぎゅっと切なくなる。
―――――身分違いの恋を、してしまっている。
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