金色のコルダ夢

□君のため、僕のため
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「葵?」


ふ、と葵の視線が空をさまよって、耳に集中してるんだとわかった。




―――綺麗な音。



葵と一緒にいろんなコンサートに行っているからわかる。





「すごい・・・・・・理想の音だ」



徐々に輝く葵の表情に、胸騒ぎを覚えた。























「・・・・・・なんで星奏の制服着てるの?」



「転校したんだ」


一週間ぶりに会った恋人にさらりと告白されて、頭をがんとたたかれたような衝撃が走った。



「てん、こう・・・・・・」




「うん。普通科に。どうしても、日野さんに会いたくてさ」



にこ、と邪気なく言われた言葉にかっと頬が紅潮した。



―――怒りで。




「・・・・・・そんなに、日野さんの演奏が気に入ったの?」



「え…」


私の反応を見て、葵は首を傾げた。



「あの、名無しさん?」



なだめるように肩に置かれた手を、ぱしりと振り払った。



「私が怒ってるのが意外? 転校なんて大事なこと、私が何も知らなくて、今知って、驚かないと思った?


 日野さんに会いたかったなんて言われて平静でいられると思った!?」




「落ち着いて、名無しさん……っ」



葵の焦った顔。


そんな顔、初めて見た。




くしゃりと顔がゆがむ。



「葵は葵の好きにしたらいいよ。そこまで縛れないよ、でも……っ」



「あれ、加地くん?」



「ちょ、火原先輩空気読んで……っ!」



「え…もしかしてオレまずった?」



あわあわとパニックになった星奏の制服に身を包んだ何人かの生徒を思わず注視する。



「ど、どうしよ日野ちゃ……っ」



「どうしましょう柚木先輩……っ」



「…とりあえず、僕たちはこの場を離れるべきじゃないかな?」



苦笑して優雅な笑みを浮かべたその人は他のみんなを率いて去って行った。


毒気を抜かれた気分になって、私は足元を見た。



――― 一人で騒いで、馬鹿みたい。






「・・・・・・帰る」



「名無しさん、待って」


「帰るって言ってるじゃない」


「僕の話も聞いてよ!」



「っ」



怒鳴る葵なんて初めてで、驚いて彼を見ると、彼も驚いたのか自分の口元を覆っていた。



「あ……ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど」



しゅんと肩を落として、葵はぽつぽつと語り始めた。




「まずは、ごめん。自分に精一杯で君の気持ちをきちんと考えきれてなかった。転校のことも・・・・・・驚かせようと思って黙ってたんだ。浅はかだったね。傷つけてごめん」




「・・・・・・」




「・・・・・・ヴィオラをもう一度はじめることにしたんだ」



「え……」


「理想の音を追うだけじゃなくて、アンサンブルって形で自分で奏でてみようって」





「・・・・・・葵」



「名無しさん、ずっと趣味でもいいから僕が音楽を続けるのを望んでたでしょ? 僕も出来れば続けたかった。でも自信がなかったんだ」



「・・・・・・」




「日野さんは、そんな僕に音楽への扉をくれた。彼女の音にいろんな人が集まるんだ。その輪に入って、僕は自分で奏でることをはじめようとしてる」




「・・・・・・」



どういう反応を返せば正解?



怒ればいい?


泣けばいい?




――――喜びたいのに、気持ちが邪魔をする。





「・・・・・・僕の彼女は、君だよ。日野さんは憧れてるだけ。僕がヴィオラを始めたいと思ってるのは君のため・・・・・・なんて言ったらおしつけがましいけど。君に聞いてほしいんだ。僕が音楽を奏でているところを」







その言葉を聞いて初めて、私はとんと葵の胸元を叩いた。



「早く、言ってよ……バカ……っ!」



「ごめんね…」




胸元を引っ掴んで頭を押し付けると、全てわかったように葵が私を抱き寄せてくれた。

今度はその手を拒まず、身を委ねる。



――――不安もすべて抱き締めて。
















―――――――



「ぐす・・・・・・浮気したら許さないんだから……」



「それはないよ。大丈夫」


「・・・・・・絶対?」



「絶対」


「・・・・・・信じた」



(貴方が好きで)


2012/9/10
 

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