金色のコルダ夢
□子供じゃない
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「はぁあんた中学生なわけ?」
年齢を聞いて遠慮なく顔をしかめたそいつに俺は不満げに口を尖らせた。
「俺が中学生だったら悪いのか?」
「なんでそんなえらそうなの・・・・・・いや桐也は桐也だし、別に」
その返答と表情は本当に構えていないことがうかがえて好印象だった。
彼女はそうかそうかと言いながらヴァイオリンを構えた。
ふん、と鼻を鳴らして目を閉じる。
いつも挑戦的に俺を見る表情とは違って、繊細で優しい音。
その音の深みに最初驚いて、彼女の存在を追いかけるようになった。
技術云々じゃなくて、俺を惹きつけてやまない音。
――――好き、だよ・・・・・・チクショウ。
たとえ俺が名無しさんを好きでも、あいつは他のやつを見てる。
『王崎先輩!』
俺に向ける笑顔とは種類が違う。
あいつを見つけた瞬間に花が開くようにぱっと笑顔になるその表情。
「どしたの、桐也? ふてくされてる?」
「どーせ俺は子供だよ。王崎よりも」
机の上に顔を伏せて言ったその言葉に、遅ればせながら俺は顔がかっと赤らむのを感じた。
そのセリフ自体が子供っぽいのに。
「…なに勘違いしてんの? 憧れと好きは似てるけど違うんだよ」
王崎先輩には憧れてるだけだよ、と言った彼女の顔はほんのり赤く。
思わず浮き足立って顔を起こした俺に、とどめの一言。
「私好きじゃない人と休みのたびに顔合わせる趣味ないし」
「まじで!?」
驚いて徐々に歓びがこみ上げる俺に、耳まで赤くなった名無しさんがそれでも挑戦的な目で見つめてきて、その瞳ごと愛しくて俺は彼女を腕の中に閉じ込めた。
「うれしー!」
「あーも、くっつくなませがき!」
照れ隠しのように叫ばれて、俺は大げさに抗議した。
「うわひでぇ。そうやって子供扱いする…」
体型的にはもう子供ともいえない。
人一倍発育のよかった体に誰にでもなく感謝して、俺はその耳元に囁きかけた。
「子供じゃないって、証明してやろうか?」
「……っ!」
腕の中で跳ねるようにびくりと動いた体が愛しくて。
腕の中で体温を増した体が愛しくて。
「――――好きだ、名無しさん」
愛しくて、嬉しくて。
顔が緩みまくってるのを自覚しながら、俺は彼女の額に唇を落とした。