金色のコルダ夢
□素直になれない二人
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ふわりと髪がなびく。
それを隣に座った男がそっと撫でて梳かした。
女は唇を綻ばせて何事か、おそらく礼を口にする。
二人は頬笑みを交わして午後のお茶会に興じていた。
その午後のひと時は、その二人が接する時間の中で一番侵してはならない聖域のような時間だった。
普段彼らを取り巻いている親衛隊も、この時ばかりは遠巻きに見守ることが暗黙の了解になっていた。
「はぁ……なんて麗しい光景なんでしょう?」
「まるで一枚の絵画のよう・・・・・・」
「く・・・・・・俺たちの白百合も柚木先輩なら任せられるか……」
「お姉さま、なんてお美しいの・・・・・・」
「お二人とも、家柄も雰囲気も見た目も何もかもまるで合わせ鏡みたいだわ」
「本当に・・・・・・運命がめぐり合わせたようにお似合いで……」
親衛隊が二人に「付き合っているのか」と問いただすと否と返事が返ってくる。
だが星奏学院の誰もがこの二人が付き合うのも時間の問題だと思っていた。
まさに美男美女の理想のカップル、と思われていた。
一方、優雅な二人の実態は。
「髪を直してくださってどうもありがとう、梓馬さん。でも自分のその長ったらしい髪を先に直した方がよろしいんじゃなくて?」
「お気遣いどうも。でも僕の髪は君ほどお転婆じゃないから大丈夫だよ」
「そうね。伸ばしすぎて重苦しいから風くらいじゃなびかないのでしょうね」
「枝毛もなくて我ながらキレイな髪だと思っているよ。風も僕のところには吹かないみたいだ」
「あら、風にまで怖がられるなんて最近顔も皮がはげてきているんじゃないの? それともはげているのは別の・・・・・・」
「ふふ、君は本当に減らず口が好きだね」
「あなたこそ女の武器を自分のものにしていくじゃありませんか」
あははうふふと遠目に見ればしごく和やかに穏やかにつつましく優雅にされているお茶会に見えるだろうが、実際はお互いに素晴らしく優しげな笑みを浮かべてくだらないあげ足取りをしていたのだった。
「そういえばまた聞かれたわ。あなたと付き合ってるのかって」
唇に笑みをたたえたまま、私は紅茶を一口飲んだ。
負けず劣らず優しげな笑みを浮かべたまま柚木もそれに応じる。
「僕もだよ。付き合っているかいないか、そんなに大切なのか? バカバカしい」
「・・・・・・誰が聞いているかわからないわよ?」
「大丈夫、誰もいないさ。あー、疲れるな、毎日毎日」
「梓馬、その笑顔でその口調だったらものすごーく面白いからやめてくれない? 私笑いそ」
「笑えばいいさ。俺はお前の笑顔が見たいからな」
「・・・・・・」
「照れたのか? かわいいやつだな」
「っ」
笑みは相変わらず他の生徒に向けるような優しげなもの。
でも声の質がぐんと色気をはねあげてきたもので、一気に顔が熱を持つのを感じた。
恥らうように俯くのを見て、どこか満足そうに柚木は笑みを深めた。
「今日は俺の勝ちだな」
「・・・・・・ずるいわ。他の人がいる場でそんなこと言われて、平静でいられるわけない……」
二人きりでも平静でいられないくらいなのに。
「くっくっく・・・なぁ、あの親衛隊のやつら俺とお前が毎日相手の表情を崩すために勝負してて完敗したら告白する、なんてことしてるって知ったらどんな顔すると思う?」
「・・・・・・とりあえず驚くんじゃない?」
「だろうな。……それで? 完敗?」
「! まさか、まだまだ完敗なんてしないわよ!」
「・・・・・・上等。絶対にお前から言わせてやるからな」
相手に好きと言わせたい、なんて。
(素直になれない言い訳)
2012/8/23