遙か四
□仮面夫婦・弁慶(5)
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「君は僕と鎌倉殿、どちらを取るんです?」
「え?」
とろりとした目の旦那様に問いかけられて私は首を傾げた。
晩酌に付き合っている最中のことだった。
近々戦になるかもしれないという話が持ち上がっていると漏らした弁慶さんがふと手荒く私を押し倒した。
驚く私を真上から見下ろして潤んだ瞳で切なげに見つめる弁慶さんに胸がしんと静かになる。
「戦になったら…君はどうするんです?」
「どうって…」
意味がよく掴めなくてそのまま見上げていると弁慶さんが私の手首をぎゅっと握って、眉間にしわをよせた。
「僕が鎌倉殿の敵になることも有りうるということ、ですよ…」
若干舌足らずな言葉。
きっと酔っているんだろうなとは思いながらも、弱った弁慶さんの言葉が本心なんだと感じられて私は彼を見つめ続けた。
「君は僕と鎌倉殿、どちらを取るんです?」
「え?」
とろりとした目の弁慶さんに、私は首を傾げて・・・・・・ふわりと笑った。
「大丈夫ですよ、弁慶さん」
「・・・・・・何を、根拠に・・・・・・」
「私は弁慶さんの奥様なんです。弁慶さんが私の安全を思ってもし置いてけぼりにしたら・・・・・・怒っちゃいますからね」
「・・・・・・」
徐々に顔を隠して擦りつけるように私の肩に頭を押し付けた弁慶さんの耳元に囁きかける。
「私、弁慶さんが想っている以上に弁慶さんが好きですからね」
ごろりとだらしなく寝転がってその勢いのまま体をさらわれる。弁慶さんの体に乗りあがるように抱きしめられて、くすくすと笑いながら私はなだめるように弁慶さんの頭を撫でた。
「もし万が一そんなことがあったら、ちゃんと私も連れて行ってくださいね」
「・・・・・・君って人は・・・・・・まったく・・・・・・かわいい人ですね・・・・・・」
ねだるように口づけて、体温の高い弁慶さんの温かさに微睡む。
(珍しい旦那様)
2013/01/24