短い小話+ブラコン夢
□夫婦の時間
1ページ/3ページ
神牙と呼ばれる、月牙族が根付く世界。
気づけば、そんな、自分の常識を超える場所で目が覚めて、私はたまたま上杉謙信と名乗る人狼に拾ってもらった。
「謙信さん、そろそろ休まないと、明日に響きますよ」
「ああ。もう少し、な」
灯りをともして執務を続ける謙信さんに胸がぎゅっとなった。
「! ……どうした」
「絶対・・・・・・無事に帰ってきてくださいね」
「・・・・・・我が妻は心配性のようだ」
わずかにからかうような声音に背中に擦りつけた頭を動かすと、謙信さんは体をずらして私を真正面から抱きしめた。
「・・・・・案ずるな。私は、お前を悲しませるようなことはせん」
ぎゅっと力を込める腕に。
謙信さんの香りに。
「・・・・・・上杉領のために尽力してる謙信さんが好きだから・・・・・・好き、だけど……」
彼の匂いのする和室。
彼がいると温かく安心する部屋なのに、彼がいなくなった途端に、広く寂しく寒く感じる。
景勝くんや景持さん、景家さん、兼続くんたちも全員いなくなってしまうから。
余計に寂しいのかも知れないけれど。
「名無しさん」
名前を呼ぶとともに指先が頬をかすめる。
そっと顎を上げて唇が重なる。
「・・・・・・謙信さんはずるい。いつも口づけで私のことを黙らせようとするんだから」
ぷく、と頬を膨らませると、謙信さんが目尻にしわを寄せておかしそうに笑った。
「・・・・・・絶対、無事に帰ってきてね」
「約束する」
髪を撫でる手の優しさに。
抱きしめる腕の強さに。
安心を覚える。
―――――どうかご無事に。
.