短い小話+ブラコン夢

□コンプレックスの克服と
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私はお姉ちゃんみたいになれない。





それは小さなころからのコンプレックス。

















どこに行っても誰にでも愛されるお姉ちゃんが最初は誇らしくてならなかった。



でも次第に、お姉ちゃんのおまけのように扱われることが増えて、私の中に悲しさが増していった。私は必要ないのかって。




お姉ちゃんのこと大好きなのに、次第に距離を置いて八つ当たりをすることも時折あって。そんな自分が嫌で仕方がなくて、でもどうしようもなくて。



朝日奈家の一員になったことは、そのコンプレックスを増加させるには十分すぎる環境だった――――――。














「あ、名無しさん。あのね、冷蔵庫にシュークリーム入ってるの。要さんが買ってきてくれたんだ。あとで一緒に・・・」




「・・・・・・食べない。要さん、お姉ちゃんに買ってきたんでしょう?」




むすっとして返事をするとお姉ちゃんの顔が少し悲しそうになった。




―――――そんな顔をさせるたびに後悔する。別に傷つけたいわけじゃないのに。





「俺は妹ちゃんたちに買ってきたんだけどなー。食べてくれないと、拗ねちゃうぞ?」



「!」



突然後ろからぎゅっと抱き着かれてその重みにもがいて抵抗する。



「やっ、もう! 要さん!」



「んー? なんだい?」



「頭にあご乗せないでくださいっ!」



「いやぁ、サイズがちょうどよくて」



くすくすと笑いながら要さんが私からのいてくれた。それを振り返って噛みつくように怒ろうとすると、要さんの手がぽふぽふと私の頭を撫でた。




「そうやって怒ってな。どうせ怒るなら元気よく怒ってる方がいい」




「!」




「ねぇ、妹ちゃん。紅茶淹れてくれない? ミルクティがいいな」




「あ、はい! 名無しさんは?」



「・・・・・・私も。甘いの」



「うん、わかった。甘いのね」



嬉しそうにふわりと笑う、お姉ちゃんの笑顔が好き。



好きなのに、好きと同時に嫌いが出てくるの。



お姉ちゃんから顔を背けてソファに向かおうとすると、要さんが読めない笑みを浮かべていた。

また何かよからぬことを企んでいるんだろうか。


警戒心たっぷりに身構えていると、要さんが身をかがめて視線を合わせた。






「・・・・・・ねぇ、名無しさん。自分で「ああ、本当に変わらなくちゃまずいかも」って思わないと人って変われないからさ、余計なお世話かもしれないけど」




「・・・・・・」





「若いんだから世の中を斜めに見るのも仕方ない。でも、ひねてたら何も見えないままだよ。妹ちゃんがみんなに愛されるのが何故か分かってる?」






「?」






「かわいいとかそんなんじゃない。いつも笑顔でいるんだ。感情に波がない。機嫌が悪くて人に当たったり、テンションが低くて反応が薄かったり、気分が乗らないから今日のお手伝いはなしとか、そういう波がないんだ。それって、どういうことかわかる?」





「なんの・・・・・・」




「・・・・・・それだけ自分の感情を抑え込んで自分よりも人を優先させてる。それってすごくしんどいよ。彼女は自分のしんどさや自分の愚痴よりも他の人を優先させる子だ」





穏やかな口調だった。




断罪しているわけでも、責めているわけでもない。




ただ、言い聞かせてる。






「君は?」




「っ」





「君は、どうだい?」





「・・・・・・」




「絵麻に嫉妬して、絵麻に八つ当たりして・・・・・・でも絵麻のことが好きだろう? あんな風に傷つけたくなんてないはずだ」





いつもふざけてばかりなのに、要さんの言葉は胸に痛かった。





―――――お姉ちゃんの気持ちなんて、お姉ちゃんの行動の意味なんて。




考えたこと、なかった――――。





かわいいからだって、だからみんなに好かれるんだって、思ってた・・・・・・。







情けなさと羞恥心から涙が出そうだった。






うつむく直前に見えた要さんの顔は、少しほっとしてて、なぜかどことなく嬉しそうだった。



「・・・・・・言葉が届いてよかったよ。自分が自分が・・・ってあんまり思わないことだね。誰だって、何かしら抱えてるものがある。人の痛みや苦しさに気づけないのは・・・・・・自分が傷つける側、苦しめる側になるってことだから」





もう一度頭を撫でられて。




「紅茶、入りましたよー」




「ありがと、妹ちゃん! シュークリームも食べようね」




「はい!」




笑いあう要さんとお姉ちゃんが、やけに遠くに思えた。







―――――目の前にいる人を大切にしたいのに、大切にする方法がわからなくて……結局私は拗ねて怒ることを繰り返す。
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