短い小話+ブラコン夢
□狡噛慎也
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「慎也」
上半身裸でサンドバッグを蹴り殴るその男の名前をそろそろと呼ぶ。
振り向いてはくれないだろう。
そう思っていたのに、彼は動きを止めて振り向いた。
「どうした」
淡々と尋ねた彼の腹筋は綺麗に六つに割れている。かなり鍛えている証拠だ。その広い背中を見て・・・・・・ときめくと同時に怖くなる。彼がいつか消えていなくなってしまいそうで。
でも今はそれよりも怖いことがあった。
いや、どちらがより怖いのだろう。
彼を存在として失うことか、それとも彼の心を失うことか。
「・・・・・・」
「名無しさん?」
名前を呼ばれて肩が跳ねる。
自分は彼に何を聞こうとここに来たのだろう。
「・・・・・・ううん、なんでもないの。様子を見に来ただけ。邪魔しちゃって、ごめんね」
手を振って笑みを作る。
「・・・・・・」
「じゃあ、またね」
手を振りながら背中を向ける。
物言いたげな視線に気づかないふりをして。
歩きだしたのに。
するりと後ろから腕が回された。
泣きたくなるほど優しい腕。
背中に触れる熱と首から胸元にかけて回された腕にわずかに力が込められる。
「・・・・・・何があった?」
気遣わしげな声音。
泣きそうになる。
「・・・・・・なに、も・・・・・・」
「じゃあどうしてそんなに泣きそうなんだ」
どうして。
そんなの。
「わかん、ない・・・・・・」
抱きしめてくれる腕を握り返して。
「好き・・・・・・好き、よ・・・・・・慎也・・・・・・」
「名無しさん・・・?」
「好きすぎて苦しいの・・・・・・慎也・・・・・・お願い・・・・・・」
気づけば涙が頬を伝っている。震える声に気づいたのか、体温の上昇に気づいたのか。
慎也が背後で怯む気配がした。
「・・・・・・私以外、見ないで……」
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