三国恋戦記夢

□不安なのはお互い様で…
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「馬に乗りたい?」



きょとんとした顔で復唱されて、私はこくこくとうなづいた。




「乗れるようになりたいです」




んー、とすこし考えるそぶりをしてから孟徳さんはにこっと笑った。



「いいよ。ただし……」




























「いい天気だね」


「そう、ですね」


近くの原っぱまで孟徳さんに馬に一緒に乗せてもらって走ってきた。



馬に乗るって、けっこう距離が近いんだよね……。




気恥ずかしく思いながらも私は申し訳なく思って口を開いた。





「……わざわざすみません」




「え? 何が?」




「私のために孟徳さんに時間を取ってもらっちゃって……」





『ただし、君に乗馬を教えるのは俺だけだよ』





有無を言わさず条件をつけられてうなづいたはいいものの、孟徳さんはすごく忙しい人で。




文若さんには嫌な顔をされてしまった。



わがままだったかもしれない、と思って私は肩を落とした。







「それは別にいいよ。だって俺が君に教えたかっただけだし」





「でも忙しいのに……」





「忙しいからって君を他の人間に預ける気にはなれなかったし、君と二人きりになれてうれしい俺もいる。だから別に気にしなくていいよ」





「……ありがとうございます」





「うーん……二人きりになれてうれしい、は流したね。まぁ、いいか」




「え? 何か言いましたか?」




「ううん。何もないよ」














「さ、練習するよ。俺は降りるね。っと」




ひょいとけっこう高い馬の背から軽々と飛び降りて、孟徳さんは私に手を差し出した。




「君も降りて」



「え? でも」




「まずは馬に乗るところから、だよ」





言われてみれば確かにそうだ。



私は素直に手を出して、馬から降ろしてもらった。





……毎回、馬に乗り降りするたびに体を支えられるのも実は恥ずかしかったりしたんだけど、それまで意識してしまったらどうしようもなくなるから考えないようにしなくちゃ。





「……」






普段接している分にはまったく武人だと思わないのに、触った手は少しごつごつしてて男の人の手なんだなって思う。剣を握る男の人の手。






烏林での撤退の時、馬の上から劉玄徳と一閃交えたことを思い出す。私を片手で抱きかかえながら、守るようにして劉玄徳の両刀を防いだ孟徳さん。






そんな力があるようには見えないのに、すごい手なんだなぁ……。






「……俺としては、君に手をぎゅっと握られててうれしいんだけど……何かついてる?」








「え……っ!?」






すこしだけ困ったように言われて、私はばっと孟徳さんの手を放した。







「すみません! あの……男の人の手なんだなって思って……っ!」







って何言ってるの自分!?





プチパニックを起こしたまま喋っていると、孟徳さんはにこーっと笑った。






「そっか。とりあえず一人で馬に乗ってみようか」




「は、はい!」





言われるままに足をかけ、胴体に手をあてて乗りあがろうとするけど、なかなかうまくいかない。





というか……今更だけどズボン履いてきてよかった!







「そっか……少し離れて見てて?」





「は、はい」





何度か乗ろうとしただけなのに息が上がってしまった。




なんて軟弱なんだろう、自分……。



一人凹む私の目の前で、孟徳さんは軽々と馬の背に乗った。





「こんな感じ。うまく体重を移動させるんだ。あんまり背中でもぞもぞすると、こいつもむずがるからね」





「なるほど」






「まぁ俺と君じゃ身長も違うから君の方がしんどいだろうけど」









そう言って孟徳さんは再び私の隣に降りた。








「もう一度挑戦してみるといい」






「はいっ!」


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