三国恋戦記夢
□すれ違う
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気づけば三国恋戦記の世界にいて、花ちゃんが隣にいた。
なんの役に立たない私も玄徳軍に受け入れてもらえて、戦場に出ていく花ちゃんと一緒に戦場に出て。
川に落ちそうになった花ちゃんの手を掴んで引き上げようとして、間抜けなことに一緒に流されてしまった私は、花ちゃんと一緒に孟徳さんに捕まった。とは言っても丁重な扱いをされてるから捕虜とは名ばかりなんだけど。
「やあ。具合はどうだい?」
「……そこそこ良くなってきました」
情けないことに私は冷たい水に長時間さらされてしまったせいで風邪を引いた。
花ちゃんは先に回復したのになんて情けない……まぁ私は助けてもらうのにかなり時間がかかってしまったらしいんだけど。
「……ごめんね。もっと早く助けてあげられたら風邪なんて引かなかったんだろうけど」
「……いいえ、気にしないでください。命があるだけで十分です」
本当に申し訳なさそうに言う孟徳さんに私は不思議な気分になる。
あんなに冷たい顔で人を殺すのに、どうしてこんなに謝ってくれるんだろう?
別に孟徳さんのせいじゃないのに。
「ねぇ……花ちゃんにも言ったんだけど、君たちうちの軍に入らない?」
「え?」
軍に?
「……花ちゃんは玄徳さんに信頼されてる軍師でした。でも私には何もありません。孟徳軍に入って利益にはなりません。逆に不利益になるかも」
言いながら自分で凹みそうになった。
ゲームは好きだったからどうすれば戦いに勝てるかはわかる。
でもそれは……花ちゃんの本がなかった場合の話。
花ちゃんが本を使えば最良の策が出てくる。私の知識に価値はない。
「……別に何もしなくていいよ」
「え?」
「何もないなら俺が君に与えてあげる。欲しいものは何でも」
「……孟徳さん」
さらりと私の髪を孟徳さんが撫でた。戯れるように指を絡めてにこーと笑う。
「……君の髪、好きだな。さらさらしててすごく気持ちいい」
「あ、あの……っ」
彼氏がいなかったわけでもないのに孟徳さんの仕種はいちいち色っぽくて頬が熱を持つ。
「孟徳! ここか!」
「……あーあ。見つかっちゃった」
「……っ」
突然開け放たれた扉からどしどしと元譲さんが入ってきた。
「いつも言っているだろう。お前がいないと仕事がはかどらん!」
「あー、はいはい。わかったよ」
うるさそうに手を振って、孟徳さんは肩をすくめた。
「ごめんね。俺仕事しに行くよ」
「い、いえ……」
するりと彼の手が私の髪を放す。
なんだかそれを名残惜しく感じた。
「じゃあまたね。さっきの話、考えておいて」
「……はい」
ぱたりと閉められた扉に私は息を吐き出した。
……落ち着こう。
あの人にいちいちドキドキしてたら心臓がいくつあっても足りないんだから……!
それに、と思う。
好きになってはいけない人だ。
彼は花ちゃんに恋してるんだから。
「……花ちゃんの気持ちはどうなんだろうとか相談されたらけっこう美味しいよね」
画面越しでなくて、生孟徳さんが恋に悩むとか……見てみたい、かも。
それにそれに、花ちゃんとすれ違って機嫌が悪い孟徳さんを直接見られるかも?
「……近くで見てにやにやしないよにしなくちゃ」
「……名無しさんちゃん、大丈夫? 入っていい?」
ノックの音とともに花ちゃんの声がして、私は「入っていいよ!」と返事をした。
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