三国恋戦記夢

□羨望
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「あー。花ちゃんかわいいなぁ……」

ぼんやりと着飾った花ちゃんを見ていると、思わず湧き上がった気持ちを素直に口に出してみる。










「うらやましいなぁ……」



「花がか?」



「うひょぅ!?」




「……なんだその驚き方は」




「げ、玄徳さんが突然湧いて出るからいけないんです!」



「……湧いて出るって……あのなぁ、虫みたいに言うのはやめろ」





呆れたようにそう言って、玄徳さんが私の隣に腰掛けた。



「花がうらやましいのか?」



「はい。だって素直ですし、かわいいし、正直だし、いい子だし」





全部がうらやましい。



恵まれた環境も、ここでいろんな人に好かれていく人柄も、持っている本も、その本と出会ったことも、ここにいることも、全て。



「……花にとっては」




「はい?」



「花にとってはお前がうらやましく思えるんだと思うぞ」



「へぇ!?」




なんで? 



私なんて取り柄の一つもない上に、偏屈だし都合いいし嘘つきだし気づかないふりするし最悪なのに。





「……みんなそんなものだろう。自分以外のものがうらやましく思えるものだ。自分と比較して自分と違って恵まれている部分をうらやましく思うんだろう」




「……玄徳さんも?」




「うん?」




「玄徳さんもそんな風に思うんですか?」




「もちろんだ。雲長にも、翼徳にも子龍にもうらやましく思う部分がたくさんある」




「……私、玄徳さんは絶対に誰かをうらやんだりしないって思ってました」




「どうしてだ?」




「だって他をうらやむ以前に恵まれてるから。人望が厚くて、剣の腕も優れてて、信頼できる部下がいて、それにかっこいいし」





「……顔の美醜は特筆すべきことなのか?」



「もちろん」




「そうか。……それにしても、そんな風に言われると」




「わかってます。全部玄徳さんが努力して手に入れたものだって。あ、顔は生まれつきとしても」




「……」




「わかってても、うらやましいです。羨望の的のくせに他の人をうらやましく思うなんて贅沢だな、なんて理不尽なことも思います」




「……」




「玄徳さんに愛される人は幸せなんだろうなぁ、とか」







「……愛されてみるか?」




「へ?」






愛されてみるか、って聞かれた?


誰に誰が?



玄徳さんに私が?





「告げる気はなかったが……どうやらお前は俺を煽るのがうまいらしい」




「え……!?」



煽ったつもりは毛頭ございませんが!






「……俺はお前が好きだ」




逃げることを許さないとばかりに大きな手に顔を包まれる。




いつもはやさしく穏やかな光を宿している瞳が、射るような強さで私の眼を捉える。






「実をいうと、雲長がうらやましいのはお前があいつに懐くからだ」



「は!?」




いびられてるだけのような気が……?



「翼徳がうらやましいのはお前があいつに気安いからだ」





「……」


徐々に自分の顔に熱が集まってくるのが分かった。




「子龍がうらやましいのはお前があいつをからかうからだ」




「……」



顔を逸らしたいのに逸らせない。


顔が玄徳さんに向かって固定されてしまっている。


顔から噴火してしまいそうだ。







「俺は贅沢だが……愛されてみろ」




どこか意地悪く笑った彼に私は真っ赤な顔のまま小さくうなづいた。








(君が羨望の的)



2011/9/14
 

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