その他夢2

□側にいるのに会えない
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忘却は罪だ、と誰が言ったのだったか。













「え・・・・・・そうくん!?」




メガネをかけたその姿に慌てて近寄ると、スーツを着たその男性はすっと姿勢を正して完璧な笑顔を浮かべた。




「――――――失礼ですが、どちら様でしょう?」




「え…」




その返事に言葉をつまらせて、食堂から姿を現した私と同じくらいの身長の女の子を見る。




「なんだ…新しい住人か?」


怪訝な顔をする凛々蝶をさりげなく背中で庇いながら、彼・・・・・・御狐神双熾は頬を緩ませた。



「わかりませんが・・・・・凛々蝶様、もうよろしいのですか?」



「ふん。いつまでもダラダラと話をしていても仕方がないからな。君も待たせていることだし」




「僕を気遣ってくれたんですか? なんてお優しい・・・・・・凛々蝶様……っ!」




「わぁ! ちょ、落ち着け! そして離せ! 知らない人が見ているだろう?」







これは・・・・・・なんだろう?




凛々蝶を抱き締めるそうくんと、彼をSSとして雇っているらしい凛々蝶。




二人の会話は私に直接向けられることはなく。





これは・・・・・・なに?








呆然としてふらりと体勢を崩した私の背中にとんっと当たったもの。




「名無しさん、久しぶりだな」



「蜻蛉兄様…」






前のときよりも幼くなったその姿。




でも安心感はいつものままで。



なんだか無性に泣きたくなって。





ぎゃいぎゃい騒ぎながらその場を去った二人を見送って、私はぽつりとつぶやいた。




「・・・・・・二人には、記憶がないんだね」





頬を一筋涙が伝い落ちて。




次から次へと伝い落ちる涙をぬぐうことも出来ず、私は彼らの背中が消えて行ったエレベーターを見続けた。




「そうくんは、やっと凛々蝶と一緒になれたんだね」



「名無しさん…」



珍しく気遣わしげな声を出した蜻蛉兄様に歪な笑みを浮かべて。




「収まるべく収まったんだね」



私の気持ちは粉々だけど、きっとこれでよかった。


前がおかしかったんだ。








もうそうくんは、私を見てくれない。
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