その他夢2
□その心偽りなく
1ページ/12ページ
「余は、秀麗以外を妻にする気はない」
後宮にあがった新しい貴妃に、劉輝はきっぱりと言った。
「秀麗?」
新しい貴妃が知らない名前にことりと首を傾げると、劉輝は厳しい顔のまま「紅貴妃のことだ」と短く言った。
その言葉にこの春に後宮に上がった貴妃のことを思い出した。
「……そこまでお好きなら、なぜ紅貴妃は後宮を辞したのですか?」
その問いかけに劉輝はふと悲しげに視線を落とした。
「……夢のために」
「夢……」
「ああ。だから、余は秀麗以外を妻にしない。そなたがここに来てしまった以上、追い返すことも出来ないが……余に寵愛されようなど思わないでほしい。期待するだけ、無駄なのだ」
譲らない、という強い視線とまっすぐな言葉に、微笑する。
「あなたは、素直な方ですね。裏も表もない。まっすぐな方」
だが、愚直なわけではない。
「私はあなたに寵愛されたいわけではありません。幸いなことに権力争いに関係のあるような家柄でもありません。
――――私は、あなたを支えるためにここにきたのです」
彼女の言葉に劉輝は目を瞠った。
秀麗が……かつての自分に放った言葉と同じ。この言葉もまた真実であると、劉輝は悟った。
彼女の瞳に偽りはなかった。
そこで初めて、劉輝は新しい貴妃自身に興味を持った。
「……そなたの名前は?」
「名無しさんと申します」
にこりと微笑んだその笑顔は秀麗のように輝いてはいなかった。
けれども小さな花が綻んだような美しさがあった。