乙女ゲーム夢

□言葉よりも雄弁な
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ため息とともに私は新選組にすこしの間だけお邪魔することになった。
 













 千鶴ちゃんが困った顔で私の腕の傷を治療してくれる。



「無茶する奴だなぁ」



 千鶴ちゃんを守るようにして共にいる、原田という人が呆れた声を出した。



「痛い……」



「そりゃ痛ぇだろうよ。けっこう深い傷負ってんだぜ?」



「そりゃそうと、お前なにもんだ?」


 眉間に深いしわを刻んだままの土方さん、が詰問するような声を出した。


「なにものって、なんのことですか?」


「……お前、人間だろ。なんであの人間を虫けらみたいに嫌ってる風間ってやつといっしょにいるんだ?」


「……拾われたんです」


 そう。拾われた。


 そして私は遊んでもらっている、らしい。





「……なにか利用価値でもあったのか」

「いえ。ほんとただのしがない人間の小娘ですから」

 ケガをしてない方の手を振って否定すると彼らは余計に不可解な顔をした。

「……ただの小娘は、自分が人間だって証明するために自分の腕を斬りつけたりはしねぇよ」

「そうですか? だってケガは治るし」


 あ、でも傷残るかもなぁ。


「女が体に傷つけんじゃねぇよ」

「わっ」
 なんだか私に対する警戒を解いてくれたみたい?

 ぐしゃぐしゃと原田さんが私の頭をなでてくれた。






「はぁ……お前、なにか有益な情報持ってねぇのかよ」


「……千景の好物ならわかりますよ。あ、嫌いなものも」



「……いらねぇよ、んな情報!」


「はは! お前おもしれぇな! 鬼の副長に物おじせずにしゃべるしよ」









「あ、あの……」


「……千鶴ちゃん、だよね? 純潔な鬼の」


 たまりかねたように声をあげた彼女に顔を向けた。


「……手当てしてくれてありがとう」


「あ、いえ……」


「……私、あなたとしゃべりたかったの」


「はい?」


「……千景の奥さんになるつもりはある?」


「! ……ありません!」


 声高く否定されて私は目をぱちくりとさせた。ないの?


「……でも、鬼なんでしょ?」


「……私は、自分が鬼だと最近知りました。すべてがとつぜんで、自分の知らないところで物事が動いてて……」


「……あいつはこいつを子供を為すための道具みてぇにしか思ってねぇんだ……だったら、こいつをそんな野郎のとこに渡すわけにゃいかねぇんだよ」



「……道具」



 怒りを目に宿した原田さんに、確かにと私はうなづいた。

 確かに彼は何かと遊ぼうとする気質がある。常に人生に飽いているからだろうけど。



「……じゃあ、彼が本心から千鶴ちゃんに求婚してたらどうするの?」



「えっ?」

「……なんだかんだ言ってやさしいよ? ……私のことを拾ってくれて、人間なのに共にいさせてくれてるのが何よりの証拠だと思うんだけど」

「……でも」

 ……まぁたしかに好意をまともに口に出すことはないけれど。


 でもきっとこの子なら、彼の側にいても大丈夫な気がする。彼が気に入る存在だと思う。……お千ちゃんと千景はなんだか相性が悪そうだったけど。


「……やさしい」


 千鶴ちゃんはどこか唖然としたようにつぶやいた。土方さんも原田さんもおどろいてぽかんと口を開いている。


 ……なんか変なこと言った?


「……ま、とにかく。お前は監視も兼ねて俺の小姓をしてろ」


「え? 夜のお世話ですか?」

「ちげぇよ!!」

「……ごめんなさい」

 すこし赤くなった土方さんが大声で否定した。そんなに怒らなくても……。



「ぶはははは! おっまえ最高!」


 ……原田さんも遠慮なく笑い転げてるし。


「ったく……原田の小姓でもいいんだぞ?」


「べつにいいぜ? 俺は。でも、ま。おもしれぇし土方さんの近くに置いてみてもいいんじゃねぇか?」



 ……どっちの小姓でもいいよ、もう。




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