乙女ゲーム夢4
□桜の花びらに導かれて
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来るようにって言われた時間よりもだいぶ早く。
私は学園を見て回るために早めに学校に来ていた。
「校庭ひろー・・・・・・」
さすが4月。
桜が咲き誇る校庭を歩きながら私は自分のスーツを見下ろした。
「ちょっと背伸びだけど……まずは自分磨きからだよね」
タイトスカートのスーツ。
着られてる感が半端ない。しかも苦手なお化粧もばっちりしてるし。
常日頃から自分を綺麗にしておかなくちゃ、って何かの強迫観念みたいに思ってた。たぶんそれは、あの人にもう一度会えた時に好きになってもらえる自分でいたいっていう意識の表れだと思うんだけど。
香水もそんなに好きじゃないけど。
慣れないヒールで時折体勢を崩しながら歩いていると、タバコのにおいがした。
「え…」
ま、まさか生徒!?
ど、どうしよう、注意しなくちゃダメ?!
一気にパニックに陥って煙の臭いに誘われるように小走りで近づくと、目の前に広がったのは見事な桜。
「……っ!」
一面薄紅色になった視界に目が釘付けになって、それからふっと傍に立つ人影に気づいた。
「こ、こら! 高校生がタバコは吸っちゃ駄目……っ!」
叱りつけるような調子でそう拳を振り上げた私の目に見えた、明らかに制服じゃないスーツ。
――――・・・・・・あれ?
「生徒じゃねぇ」
「っ」
鼓膜を震わせた低い声。
すらりとした足をスーツが包み込んでいて、それをたどるように視線を上げていくと・・・・・・。
――――――土方さん。
胸が。震えた。
やっと会えた。
そんな思いを抱いて声を出そうとした。
でも一瞬で凍りつく。
覚えていなかったら?
ううん、覚えてない確率が高い。
綺麗な顔をした、きつい目を眇めた、不審者を見るようなタバコを咥えた土方さんをじっと見つめ、私は振り上げたこぶしを下ろした。
「・・・・・・まち、がえ、ました・・・・・・」
蚊の鳴くような声が出る。
「・・・・・・新しい女性教師か」
返された声は不機嫌そうで昔私にかけられていた優しい声音じゃない。まるで知らない人間にかける声。
それがとんでもなく悲しくて泣きそうになりながら慌てて声を出した。
「名無し、名無しさんといいます! しゃ、社会人としても教師としてもまだまだ未熟者ですのでご迷惑もおかけするかと思いますがよろしくご鞭撻のほどお願いいたします!!」
ノンブレスで一気に言い切って浅くなった呼吸で土方さんを見ると、彼は虚をつかれたような顔をしてそれから眉間にしわを寄せた。
「・・・・・・見た目の割にゃ、まともな挨拶だな」
「え? 今なんて…」
「いい。職員室行くぞ。時間だ」
「あ、はい!」
不機嫌そうに言ってケータイ灰皿にタバコを押し付けた土方さんの背中を追いかける。
・・・・・・シャツで覆われたら、こんな広い背中なんだ。前も広いと思った。
でも今は、広いよりも腰細いって思うなぁ。
再会できた喜ぶがひたひたと押し寄せる。
――――うん。頑張ろう!
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