乙女ゲーム夢4
□ループの末に
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鼻歌を歌わんばかりの上機嫌で本を読んでいる私を、千鶴は不思議そうな顔で見た。
「面白い?」
「うん」
「そか…」
興味なさそうに自分のお弁当に視線を落とした彼女に私も首を傾げた。
「どうかした?」
「名無しさんちゃんって本が好きだよね」
あー、と思わず口から声が漏れる。
その一言にいろんな感情が集約されていた。
「好きだね。しかもジャンル問わずだし」
どんなものでも気になったら手を出すことにしてる。気に入った作者の本を集めることも好きだけど。
「私苦手だもんね…一行読んだら眠くなっちゃう」
「愛しの土方先生の古典も成績振るわないもんね」
肩を竦めて返すと唇をとがらせて千鶴がぷくんと頬をふくらませた。
「だから斎藤先輩に古典教えてもらってるんだもん」
「え……」
突然出てきた名前にどきりとして千鶴を見る。
哀しそうに俯く千鶴には私の顔は見えてなかったはず。そう思って胸をなで下ろしつつ「教えてもらってるの?」と聞いた。出来るだけ平凡な声を出せていることを祈って。
「うん。この間から放課後に図書室で。すごいの、斎藤先輩ってすごく教えるのが上手でね」
にこにこと報告しはじめた千鶴に自分の笑顔が引きつるのを感じた。
―――――斎藤くん、頑張ってるんだ。
ちゃんとアプローチをかけている。見ているだけでどうしていいかわからない私よりもずっと建設的だ、と苦く思った。
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