乙女ゲーム夢4

□ループの末に
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ここ最近入り浸ってるな、と思いながら今日も今日とて準備室で本棚に向かっているとふと土方先生が口を開いた。




「最近じゃ、遺骨をアクセサリ―に変えて身に着けることができるようになるんだってな。まぁ、ある程度金がかかるらしいが」


「え、そんなのあるんですか? アクセサリーだったらずっと身に着けていられますもんね・・・・・・いつか欲しいかも」


自分のとても大切な人のお骨なら、身に着けていても気持ち悪くないし。

そう返した私に土方先生は難しく何かを考え込んだ。





「ん。けど、そういう行為自体が未練になるのか・・・・・・どうなんだろうな」



「あー…確かに。でもなぁ、うーん・・・・・・」



亡くなった人を思うことは悪いことじゃないはずだし。

でも囚われすぎてもいけないんだろうし。

頭をうんうんうならせていた私は、ふと土方先生を見上げた。



「・・・・・・土方先生は、誰か大切な人を亡くしたんですか?」



そういえばさっきから死についてばかり考えているようだ、と気づいた。


私の問いかけに土方先生は少し返答に困って・・・・・・そして頭を振った。




「いや、どうかな。わからねぇ。ただ、どうしてだろうな……ずっとずっと昔は生き急いで生きることにだけ必死になってた・・・・・・死なんてものからは目を逸らして・・・・・・だから最近じゃよく死について考える」



「昔って……荒れてたんですか?」



「いや・・・・・・もっとずっと、記憶のないくらい昔の話だ」



「・・・・・・?」



意味をよく理解できなくて首を傾げたら土方先生が少し笑って私の頭をくしゃりと撫でた。



「わからなくてもいいさ。雪村にもこの話をしたんだが、あいつは親身になって心配してくれてな。…・・・でも俺にはお前のその淡白な反応の方が気楽だよ。救われる」



肩を竦めた土方先生にどきりとする。


知ってる?


千鶴が土方先生を好きだって?


確かにわかるような態度は取っている。でも今の言い方じゃ・・・・・・千鶴の思いは報われない。





「お前、湯かんって知ってるか?」


「え? あー…ええと、納棺師みたいな感じですっけ?」


頼りない知識を総動員した結果のそれに、土方先生は呆れることなく返してくれた。



「納棺よりは体を洗うことに重きを置いている方だな」


「ほう?」



「何おっさんみたいな相槌打ってんだ」



「おっさんって言わないでください!」



「褒めてんだ」


「褒めてない! ぜったい褒めてないっ」



「はは・・・・・・で、その湯かんなわけだが……最近身内が亡くなってな。大往生で、一度見させてもらったが・・・・・・柄にもなく、感動した。あれは、尊い仕事だなぁ」



「尊い、ですか?」



「ああ。尊敬する。・・・・・・死ってもんは無常で非常で非日常なもんだろ」


「はい・・・」



「誰にとってもそうで、だがその死んだ相手によってはそれぞれ思うところも違うわけで。悲しいって気持ちが根底にあったとしても、その度合いや表し方は個人によって差が出てくるよな。でも総じて、混乱してるわけだ。よっぽど看病疲れしてる人じゃなければな」



「…です」



「その整理をつかせてくれるのが、湯かんじゃねぇかと思うわけだ」


「え?」




「ま、冷たく言ってしまえば死んだ人間はもう痛くも苦しくもないわけだ。それを綺麗にしてあげたいって願うのは遺族の・・・・・・生きてる人間の欲深さなわけで。だがそれを解消しないければ今度は生きてる人間の未練になる」



「・・・・・・わかり、ます」


分かると言っていいのか、迷いながらの返事だったけど土方先生はバカにすることなくうなづいてくれた。




「これほど丁寧に扱われたことないってくらい丁寧に全身洗い清めてくれてな。見違えたみたいに穏やかで安らかで・・・・・・どことなく笑った顔になったんだよ」




思いだす様に表情を緩めて優しく笑う土方先生に、よっぽど嬉しかったんだなと思って私は小さく「素敵なお仕事ですね」と返した。





「ああ。尊い、仕事だなと思った。嫌われそうな仕事なのに意外と若い人が来たし、驚いて聞いたら体力仕事な分若い人が多いと言われてまた驚いたしな。認知度が低いからあんまり知られてないが、葬儀代が少し高くなっても、あれには金を払う価値があると思った」



「・・・・・・身内としては嬉しいですよね。自分の家族を大切に扱ってもらえたら」



「ああ。だっていくら身内でも・・・・・・やっぱり死んだら「モノ」になるんだよ。家族だと思っていても近寄りがたいものになる。けどいつも寝ているときの顔に戻してもらえたら・・・・・・ああ、この人なんだなって」




ぎゅ、と手を握った土方先生を横目に、私はコーヒーを淹れる準備をした。
ちゃんと座って話そう、と思って。



「やってる人の心がけによっても丁寧さとかは違うんだろう。たった一言、かける言葉があっただけでも楽になれたりとか・・・・・・あの仕事は、というか湯かんってのは・・・・・・遺族の気持ちを優しくしてくれる儀式なんだろうな」



珍しくも柔らかな表情で笑う土方先生の前に座って、私はにこりと笑った。。




「私はまだ身内でしてもらったことはないんですけど、今後の参考までに聞いてもいいですか?」



きっと話したいんだろうな、とも思ったから。

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