その他夢2
□金木犀
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久し振りに会った妻はずいぶん屋敷になじみ、笑顔で出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、旦那様」
ふわりとした笑顔で迎えてくれた妻に鳳珠は一つ頷いた。
「今帰った」
そしてそのまま横を通り過ぎる。
彼女はそっと後をついて歩きながら尋ねた。
「旦那様、食事はお部屋に運んだ方がよろしいですか?」
「……ああ」
「かしこまりました」
名無しさんは自分が命じる前に自分の言いたいことを先回りして用意してくれている。そして仕事を持ち帰っていることにも当然だという対応をしてくれている。
理解がある、というか。
ひどくやりやすい。
妻をとったにも関わらず前と同じ…いや、前より少しだけ快適な生活が出来ている。
自室で持ち帰った仕事をしながら、鳳珠は感心していた。
―――これなら、やっていけそうだ。
そう思ったのもつかの間。
風呂から上がった鳳珠を待っていたのは満面の笑みをたたえた名無しさんだった。
「……」
「旦那様、こちらにお座りになってください」
有無を言わさず椅子に座らされたかと思うと、彼女は自分の背後に立って「失礼します」と言ってから髪の水分を布で拭い始めた。
「……」
「まぁ……綺麗だとは思っていましたが、これほどとは……私、いまとても幸せです、旦那様」
「……そうか」
そうとしか返しようがなく、鳳珠はされるがままに座った状態でいた。
髪を拭い、梳かして満足した彼女は満足げに息をつき、一礼して去って行った。
まさかそれが鳳珠が家にいる際の恒例行事になるとは思いもしなかった鳳珠であった。