遙か夢弐
□互い、気づかず
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屋敷に残っていたのが私とリズ先生だけで、なんとなく一緒にお茶をすることになった。
「……」
「……」
無言の間が落ちる。それは今までだったら居心地が悪いこともなく、のんびりとした時間だった。
でも今は、少しだけ辛い……。
「……お前は」
「はい?」
「ヒノエの、どこがいいのだ……?」
「え?」
ヒノエくん?
「えっと…」
そういう、意味だろう?
ドキドキと胸が嫌な音を立てる。
もしかして…リズ先生は私がヒノエくんを好きだと思ってる……?
「…」
人の想いは、こうも伝わらないものなのか…。
ほっとするはずなのに寂しくも感じて、私はふるりと首を横に振った。
「…リズ先生は……望美ちゃんのどこがいいんですか…?」
「……神子の?」
驚いた顔をしたリズ先生に、気づかれていないと思っていたのだろうかと思って私はくすりと笑ってしまった。
「大丈夫です。誰にも言いませんから」
「…それは」
「でも望美ちゃんはかわいいし、何にも一生懸命だから……どこが、とかじゃなくて全部いいんでしょうね……?」
「名無しさん!」
「え?」
突然強く名前を呼ばれて私は肩をぴくりと震わせた。
リズ先生を見るととても真剣な顔で私を見ていて、どうしたのだろうと思って首を傾げるとどこか焦ったような顔で私の肩を掴んだ。
「お前は…私が神子を好きだと……そう思っていたのか…?」
「えっ?」
切なげに問われて私は驚いた。
だって…その言い方はまるで…
「そうじゃ、ないんですか…?」
「…違う」
「!?」
違う?
そんな……だって……
「だ、って…望美ちゃんは、リズ先生の恩人、でしょう? ずっとずっと望美ちゃんを助けようと思ってたんでしょう?」
素直に「違ったんだ、よかった」なんて思うことが出来なくて、私はどこかリズ先生が望美ちゃんを好きなんだって言ってくれるのを期待しながらやっとの思いで言葉を吐き出した。
「……お前は知っているのだな」
「あ……」
「たしかに、私は神子を助けたいと思って鍛錬を重ねてきた。だがそれは、神子に懸想してではない。私が心を寄せているのは……お前だ」
「……っ!」
耳が……おかしくなったのかと思った……。
「わ、たし……?」
嘘……。
信じられなくてふるふると首を横に振ってもリズ先生は私をじっと見つめたまま。
でもすっと視線を逸らすと悲しげにつぶやいた。
「……困らせたな……すまなかった。忘れてくれ」
「……っ!」
今にも部屋を出ていきそうなリズ先生のマントの裾を、咄嗟にぎゅっと掴んだ。
でものどの奥がひっついたみたいに言葉を出そうにもまともに言葉が出てこない。それでもこのまま行かせてしまってはいけないと思って私は必死で喋りだした。
「わ、たし、リズ先生は望美ちゃんが好きだと思ってて! お似合い、だし……応援しなくちゃと思ってて、でも心が痛くて……!」
「名無しさん……」
「リズ先生は私がヒノエくんのことを好きだと思ってるし、でも……」
「…」
ドキドキと胸が鳴る。
いいの?
ほんとに?
「私…リズ先生のこと……好きだって言っても、いいんですか?」
「言ってくれ。お前の口から、聞きたい」
柔らかな表情でそう言われて、私は息を吐き出した。
「……リズ先生が、好きです」
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