遙か夢弐

□ゆらゆらり
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誰にも必要とされず、親にも疎まれ、存在意義を失っていた。


痛すぎて感じることをやめた心は色を喪い、ただ漫然と日々を過ごしていた私に訪れた転機。




15のとき、その体を売って稼げと言われたと言われた時は遅いくらいだなと思った。



よくこの年まで疎く思いながらも同じ屋根の下で過ごしてくれたものだと逆に感心しながら、私は平家へと売られていった。




でも。





「おい、まだ子供だろう!?」





驚いたように、怒ったようにそう怒鳴った彼のおかげで私の世界は色を取り戻した。



日々気にかけ、声をかけてくれる彼の存在に、はじめて安らぎと愛しさを覚えた。







「あなたが……っ! あなたさえいなければ、将臣くんは私だけのものだったのに!」




彼女に言われて、私は最初反論しようと口を開いた。




「私は将臣くんのためにここに戻ってきたのに……あなたなんていらない……っ」




「……っ!」




「こんなに辛い思いをして何度も繰り返してきてやっと出会えたのに、どうしてあなたがいるの!? あなたなんて……生まれてこなければよかったのに!」




深い悲しみに……私はどうしようもなくなった。



きっと彼女は我に返った時にひどいことを言ったと自分を責めるのだろう。


私に謝るのかもしれない。


でも彼女の言っていることは正しいのだ。





「……」





私はうっすらと笑みを浮かべた。




「……何がおかしいんですか?」




ひどく青ざめた顔をする彼女にさらに笑みが浮かぶ。




馬鹿にされたとでも思ったのだろうか。


違う。



ただ私の眼を覚ましてくれた彼女に感謝したくなっただけだ。




「あなたの言うとおりです」



「え……っ」



「私がいなければ……生まれてこなければ、よかったのにね」




「あ……」



徐々に絶望を浮かべる彼女にゆるく首を横に振る。



「後悔しないで。あなたは、正しいことを言ったんだから」








ごめんなさい。


生まれてきて、ごめんね。








ひと時の、幸せな、甘い夢。

元から私には不相応なものだった。
ひと時味わえただけでも、幸せだった。






―――――将臣。
―――――愛してる……。




心の中で呟いて、私は彼女の目の前から姿を消した。


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