□10 B -夜空の赤とX-

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このマイペース男!
興味津々にジャンパーを見るスピに、口には出せない悪態を目で訴えてみる。
それと一緒に、何でオーナーが持っていたのかも気になってまさぐる手のひらを掴むと。


「……確か、イネの後輩の調律師の子に上げたんじゃなかったかな」


にっこりと告げられた。

スピの香りだったんだ…

香りの正体が分かったことでモヤモヤが晴れた、けど…


「オーナーが調律師?!」


新たなモヤモヤが次から次へと出てくる。まだブラストが涼だということも確かめてないのに。

不意に握ったままだった手を握り返されて、2回りくらい大きな手のひらが私のを包み込んだ。運動していたと言う通り熱い手のひらに、はっとして見上げるとカチ合う赤い眸。スピは意味深げに笑んで、手の甲を丁寧に撫でる。何がしたいのか逡巡したけれど駄目。
ただ、自分がリラックスしていくのは良く分かる。


「千歳ちゃんだったよね。随分慕ってくれたから覚えてるよ。小鳥ちゃんのオーナーだったなんて驚いたな」
「………ホントに、ビックリした…」
「……所で、ねぇ、コレ着ててウチのチームの子達に何も言われなかったかい?」


突然、変えられた話題。
少しだけ不審に思ったけれど、黒炎さんや鈴木さんの印象は強かったから、すんなりと思い出した。


「そいえば、…やたら見られた…、てかこのジャンパー、チームのなんでしょ?私着てて良かったのかな」


会場に女が居なかった事が悪目立ちの原因だと思ったけれど、鈴木さんと話し出した辺りから視線が一層痛くなった気がしないでもない。


「着てていいよ。多分、皆知ってるから」
「………何を?」
「小鳥ちゃんは、インターネットでATの情報を見ないのかい?」


前後の脈絡が分からない。
頭の上にはクエスチョンマーク、眉間には皺を浮かべていると、スピはそれを取り払う様に人差し指を立てた。


「こないだのRIZEの一件、ATのサイトにアップされてたんだよ」
「……」
「あれ?やっぱり見てない?」


スピによると、匿名でのムービーの提供があったらしく、それがあちこちのサイトに出回っているらしい。タイトルは『炎の王と名無し姫』やら『愛の炎逃避行』やら週刊誌並みに回覧を煽るものが多数。
そのフザけた話は、僕も今日黒炎から聞いたんだ、と締め括られた。
ここまで聞けば、私でも想像はついた。ボルケーノに属することなく、そのジャンパーを当たり前の様に着ていれば嫌でも思い当たるだろう。


「迷惑、かけてごめんなさい」


温かくなった手を大きな手のひらから引き抜いて、今度こそジャンパーを脱いだ。スピの目はまともに見られなくて、俯いたまま。


「…………僕としては、既成事実を作ってくれたその匿名さんには、とても感謝してるんだけど」
「!、感謝…って」
「だってほら、これで小鳥ちゃんは堂々と僕の隣を走ってくれるじゃないか」


スピらしいのんびりとした口調で当然のように言うものだから。
そっと見上げれば、眸が弧を描いて、なんとも言えない柔らかい表情がそこにあった。


「だからそんな、泣きそうな顔しないで?」
「泣き…っ?!」
「あ、違うか。…真っ赤?」


泣きそうだと指摘されたことに焦った表情を更に笑いながら指摘される。
口をつぐんで睨んでみるけれど、効果はなく。


「可愛いね」


そう言って寄ってきた唇が、そっと私の唇に触れた。
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