□19 D -拉致軟禁セクハラ未遂事件-
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「よし」
「…」
「…?えー…と、どう、かな?」
「っすご、い!」
綺麗な色!
顔小さく見えるっ!
鏡に映った別人を見て、思わず目を疑った。
髪の長さは切られた方に揃えられて半分の長さに。
全体的に軽くパーマがかかり、ふわりとした印象に変わっている。
そして何と言っても、スピおすすめの髪色!
「前髪は横に流してたからね、これくらいの長さに切ると小顔効果があるんだよ」
顔を横に寄せて同じように鏡を覗くスピに鏡越しに視線を合わせ。
「ありがとう!」
ピースを作ってにっぱり笑えば、スピに髪を整えるように頭を撫でられた。
「スピットさーん、こっちもお願いしまあす」
ブローされて軽くワックスを馴染ませた髪をちょこちょこと弄くっていると、和子の笑いを含んだ声が店内に響く。
音源はその声だけ。
そう、今日は定休日なのだ。
「わざわざ開けてくれたんだよね…」
―ごめんね、もうカラー終われるしシャンプー行こうか?
―はあい、もうスピットさんとりこ構いすぎ!
―え、うそ!
―うわ!自覚なしか!
自分の顔ばかりじっくり見ているのもおかしくなって、普段見る機会のないキラキラした雑誌を手に取る。
目の回りがキラキラした女の人。
が車をバックに男の人と腕を組んで。
『今日は、忙しい彼とカフェデート』
がコンセプトらしい。
…カフェなのにバックは車なんだ。
とか、彼忙しいのに車で迎えに来させたんだ。
とか。
気になる…………
けど、それよりも。
気になるのは彼の吹き出しだ。
『彼女が僕のためにオシャレをしてくれて嬉しいです!』
「オシャレ、」
してくれて嬉しい…って。
してくれたら嬉しい。ってことだよね?
「あ、ねーとりこって昼からバイトでしょ?!私まだかかりそうだから先行く…?」
「あ、うんごめん!スピいい?」
「ん、気を付けてね」
「いってらっしゃあい!」
クローゼットにしまってもらったリュックを出して、「ありがとう」と声をかける。
ドアに手をかけたところで、自然にドアが開いた。
「いってらっしゃい」
「ん」
額に軽く指を当てて、にこり。
敬礼すると唇の端を音を出して吸われた。
す、われ…?
「ッ」
「仕事が終わったら電話して、話があるんだ」
「え…あ、うん」
「頑張って!」
「は、はい」
―…なんか、スピのペースへの巻き込まれ方が酷くなった気がする。
チラリと和子を振り返ると、鏡越しにニヤリ。
穴があったら入りたい、という諺を身を持って体験した午前10時53分。