□18 C -優しい仲直り-
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「ん…、や、ちょ擽ったい…」


ふわふわの赤い髪が顎に触る。
湿った唇が優しい音を発てて、離れて、触れて。
顎のラインを辿っていく。


「…前、見えてるの?」
「ん」


病室に着くまで。
そんな名目で横抱きにされてキスの雨。


本当に見えてるのかな…、


唇が離れたと同時に、チラリと見上げる。
てっきり前を見るものだと思ったのに、眸を薄く開ける瞬間から目が合って。


「…?なあに」
「びょ、病室まだかな…っ」


あからさまに話を逸らしてしまった…

まさか、たかが目を開ける仕草だけでこんなに。


「このまま、着かなければいいのに」
「っ」


耳から侵されてく。
心臓がぎゅうって、告白してもこうなるものなの?

病院着の合わせをぎゅっと掴むと、心配そうなスピの顔が覗き込んできた。


「大丈夫…?ナースステーションに直接行こうか?」
「ううん!痛いんじゃなくって」


疼く、っていうか。
痺れるっていうか。


合わせから顔を上げると、思ったよりも至近距離にその顔はあった。


「あ、…」
「……」


鼻先が触れる距離で視線だけが静かに交差する。
唇からは震えるような吐息。


ゆるりとスピが顔の角度を傾けた。


ああキスが来るって、私は目を閉じて。

そういえば、
いつの間にか目を閉じるタイミングも覚えてしまったんだね。












「、とりこ?病室着いたよ」


いや、覚えられてなかったらしい。
てか、なにこの羞恥プレイ…


「…っそうですねー」
「あ、っぶない!イキナリ立ったりしたら…っ」
「平気!自分で歩くっ、から…!ここまでありがと」


弱い力でも簡単に開くスライドタイプの引き戸を思いきり開けてやろうなんて大人気ないと思うけど。

私はスピより子供で。
それはどう頑張っても変えられない。

なんか、悔しい。あんな余裕。

だってまだ、さ。
キス、してないよね…?
私が起きてから。



く…口に…っ!



でもだからといって私の無茶苦茶な八つ当たりに大部屋の人達を巻き込むわけにもいかないし。
ゆっくりとスライドドアを開けて、後ろを見ないようにドアを閉める。


「待って、」


ここで待たなきゃ、また同じこと繰り返すんじゃない?
分かってるのに、
なにを…意地になってんの。私。


「ね、まって…?」


 
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