□16 C -気持ちを伝えるということ-

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「シームカ」
「スピ君!」


白い病室にひょこりと現れた赤髪。

完璧な笑顔でコーティングされているものの、その笑顔が心からのものでないくらい誰が見ても分かる。
それくらい空回った笑顔が、目の下の隈をより際立たせて。


「…だいじょーぶ?」
「へ?」


訊かずにはいられないじゃない。

センスのいい細めの花束は、リーダーのセレクトショップと化した病院の花屋さんのもの。
それを脇のサイドボードの花瓶に活けている横顔にもう一度。


「スピ君、疲れてるんじゃないの?ダイジョーブ?」


眸が瞬いて、困り顔のスピ君。


「シムカこそ。…守れなくて、ごめんね」
「もお!何十回謝るのよぉ!油断してた私も悪い!」


私は宙から継いで、ずっとジェネシスの総長だったの。
油断なんて、していい訳なかったのにね。
それに私は、起きたときカラス君が居てくれただけで、幸せだったよ?


「ねぇ?」


スピ君が今気にしてるのは、違うんじゃないの?
ちょっぴり悔しいけど、違う女の子のことなんじゃないの?


「スーピーくーん」


話してくれるよね?

小首を傾げて、お願いのポーズ。
これでスピ君がお願いを訊いてくれなかったことはない!と断言できる一級品のアイテム!


「…シムカには、敵わないなぁ。」
「うふ」
「僕がソレには逆らえないって分かってやってる所に、だよ?」
「えー!」


ふふ、と品良く笑ってから、スピ君は思い出したように辺りを見渡した。


「あ」
「なぁに?」


お目当てのものが見つかったのか、眸が一瞬見開いて。


「素敵な車椅子だね、………あれで散歩がてら、どうかな?」
「ステキね」


私が答えるが早いかのタイミングでシーツにくるまれたままの身体が浮いた。


「?、どうかした?」
「…スピ君それ、天然なら止めた方がいいよ」


オヒメサマダッコなんて、

あのこが見たら…、なんて想像しないのかしら?

でも、…そうねぇ。
私はスピ君の悩みを訊いて上げるんだもん。
これくらいいいわよねー!


「ちょ…シムカ!」
「うふふー」


細くて白い首に、ぎゅうっと。

頬を擦り寄せて顎を上げる。


「スピ君キスー」
「…」
「んー?」


唇に触れたのは指先。
目を開けるとスピ君は少しだけ目を逸らした。
まるで照れているみたいに。


「シムカそういうことは、好きな彼にしかするべきじゃないよ」


え、


じゃあオヒメサマダッコはいいの?
これで勘違いしちゃうこのが多いわよきっと。


「スピ君、ちょっと変わった?」


色んな思いを引っ括めて、

そう一言。


「僕は僕だけど…」
「……分かってないなぁ」
「?」
「独り言独り言!」
「?、?」
「さあスピ君、行こー!」


スピ君が車椅子の後ろに回ったのを確認して、GO!と腕を上げる。
緩やかに動き出した車椅子に、ゆったりと背中を預けて、私は男版才色兼備のスピ君の悩みとやらを思い描くのでした!
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