□15 C -疑いの風が頬を撫で、-

1ページ/7ページ





タバコを燻らす指先。

気づいたら熱烈視線送りまくり。
そりゃ必然的に目も合うわな。


「……いやいや、いつからココ、タバコ可になったんだよ」


目が合ったそいつに顔を向けたまま、カウンターでカクテルを飲む千歳に憮然と言い放つ。
つか仕事しろよ。


「えーっと…小鳥ちゃんが早上がりの時は、いつも、かなぁ?」
「ぶりっこしすんな、年増」
「だって!喫煙者の肩身が狭くなるこのご時世……っ」


頬を膨らました千歳が視界の端に入ってきて、思わず眉間に皺が寄る。


「ひっ」
「ちょ!涼さんっ!お客さんは睨まないでっ!」
「あいつが腰抜けなんだよ」


ドタドタと情けない音を発ててドアへ向かう男に、追い討ちのような悪口が口を吐いて出た。勿論、無意識に。


「そんな怒らないでよー…」
「俺があんなに頼んだのになぁ?」
「………………タバコの臭いが次のシフトに残らないようにしてるわ」
「…………まあ、とりこのシフトん時に禁煙になってんなら問題ねぇわ」
「そういえば涼さんもキッパリ止めたわね、タバコ」


向き直って、目の前のブラックを一口啜る。
千歳は俺が答えるのを期待してはいない様だった。





ヴヴヴヴヴ…




俺の携帯が震えたのは、一息吐いて二口目を啜った、その時だ。
仕事の帰りにそのままフェアレディアにきたものだから、振動源はジャケットの内側。
携帯を取り出してディスプレイを確認すれば、とりこの名前だった。


「…なんだ?」


耳を当てた所で、聞こえるのは風の音。
そして、掠れた息遣いだ。


『…ぁ、はぁ…、は…っ』
「おい?誰だてめえとりこじゃねぇな」


あぁ、変質電話ってヤツかよ?

いや、とりこの携帯だと確認したんだからそんなのあり得ないだろ。
それにとりこの携帯である以上、掛かって来た時点でそれはそれで問題だ。


「あぁーーっと、」
『………っきゃ?!何あんた!ねえ涼さんっ!助け…助けて下さいっ!とりこがまだ……ッちょっ離し…』


何から聞き出そうと頭をまとめていると、突然声が鮮明になり。
その声の最後に、聞き慣れた名前。


「え?!涼さん帰るの?!」
「わりぃ」


気づいたら、さっき罵った男のように情けない音を発ててフェアレディアを飛び出していた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ