□13 B -友情親愛、愛情-
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あのトリックを極めた瞬間は、上昇気流が嵐みたいに私(とりこ)の身体を支えてくれていた。
あれだけのライダーが一堂に会していればライダーの纏う風が吹き荒れるのも当然で、地上は屋根の上からでは考えられない程の風圧が渦巻いて。
「凄かったなァ…」
その後、もみくちゃにされたことも。
自分のトリックにまさか自分自身が魅せられたことも、全部引っ括めて。
「凄かった、なァ」
感嘆、とも取れる言葉が吐息と一緒に洩れる。
「……………おい」
「っわきゃ!」
直立不動、もしくは若干貧乏揺すりをしながら昨日のことを思い返していると、突然現実に引き戻された。
何も捉えていなかった目の前に突然、拳。
しかも当たったら結構、いやかなり盛大に出血大サービスし兼ねない、拳。
「ぬぬぬっぬえくん!」
ひゅん、とソレが頬1mmの距離で掠めてマントがばさりと翻る。
振り返った紫の眸は、明らかな呆れを孕んでいた。
「お前、キューブしたら開始10秒しねー内に死、ぬ、ぞ。」
「うわ!会話しながら攻撃なんて卑怯ですっ!」
死、で突っ込んで来て。
ぬ、で左から右への蹴り。
ぞ、で軸足をそのままに、今度は右から左へ唸る様に風を切る回し蹴り。
勿論バランスは全く崩れないし、頭オンリーで狙ってくるものだから堪ったもんじゃない。
「ちょっ!顔ですか鵺君!」
「黙ってろ!」
確かに、王がそう言えばそれまでだけど。
上の命令は絶対。
そんな風潮がこの世界にはある。
だからこそ、総長には威厳、風格、人格、絶対の強さなんかが必要なんだと思う。
人が付いて来る魅力。
ソレがなければ終わりだもの。
…でも、何か。
折角親しくなれたのに(私の独り善がりだとしても、だ)その一言だけで片付けられて仕舞うのが、…少し寂しい、だなんて。
私、欲張りになったみたいだ。
「…っんな顔してんな!!やりにきーだろ!」
「!」
連続技、というよりもっと速い連携攻撃。私が避け切れているのが不思議な位だ。そのほんの刹那の間に眉間に皺を寄せた鵺君が見えた。
「ッ!」
と思ったら、ただ単に彼の動きが停止していただけ。
息を詰めた私の鼻先に、硬くコーティングされた爪先がある。
「避ける気ねーだろ小鳥。」
「……よっ避けてるじゃないですかっ?!」
鵺君は脚を下ろして、地面をコツコツと蹴る。
「俺が避けてんだよ。」
「は?!」
「それに、トリック一辺もしてねー。全部脚だけ、だろ?」
そう言われれば。
「なんで、…ですか?」
もしかしてトリック魅せるにも値しないとか…っ?!
思考が追い込まれていく。
視線が自然に下がっていく私、紫の眸がそれを許さず下から覗き込んで来た。
「ブラストに、取り敢えず一通り避け方と逃げ方を教え込めって言われてる。避けんなら、目で追えなきゃ意味ねーだろ?」
言われてることは凄く尤もな意見。
「俺のトリック、多分追えねーし。取り敢えず目ェ慣らさせるのが先決だろ。
だから今は『黙ってろ』、言ってる意味、解るよな?」
諭すように答えを導かれて、不覚にも目の前の少年に感動してしまった。
「鵺君って、本当は大人?」
「ばーか」
鵺君は、彼らしくニッと笑った後遠くを指差し一言。
「迎え、来たぞ」