□11 B -手を取れ-

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キスされた。


何気に、ファーストキス。
大事に取っておいたとかそんな律儀なものではないけれど。

この人が私のハジメテ。

それだけで何か特別なように思えた。


「………もう一回、い?」
「ん…、っ」


甘えるような声が心地好くて、ぼんやりした頭でその意味を解読しようとしたけれど、無理。
なんかもう………何も考えられないかも。


「あー…イイトコロで邪魔して悪ィな、スピットファイア」
「そう思うなら、暫く時間を置いてくれるかな」
「ばぁか。先約は俺だろうが」
「…だってまさか小鳥ちゃんが来てくれるとは思わないじゃないか。」


触れる息が、ふぅ、とした溜め息に変わって鼻先に軽いキスを贈られる。





…私は、というと。
聞き覚えの有りすぎるその声に、軽く硬直して振り向けないでいた。


「とりこーー、隅に置けねぇな」


そして勿論、彼が放って置いてくれるはずもなく…


「…っ何で居るの?!」


確かキスの前までは彼に会わなければ、と思っていた気がするけど気にしてられない。
決死の思いで振り返ると、風に靡いたフードが彼の頭からスルリと落ちる所だった。
赤の月明かりに照らし出されたのは白に近い金、ではなく。
鮮血の月に照らされた深紅の髪。


「…涼、だよね?」
「なんだ、ツレねぇの。ひとつ屋根の下の仲だろ?」


後ろの空気が、一瞬で冷たくなった。
けれどそれを気にする間もなく、柵の上に居た涼は私の足元へ降り立ち。


「炎の王、スピットファイア。貴方に御伝えする。」


私の腰に手を回して、涼は見たことのないような柔らかい笑みを浮かべた。
恭しく最敬礼をして薄い唇からつむがれた言葉。


「長らく無断でご無沙汰いたしておりまして、大変ご迷惑をおかけしました。…本日より、私、Blast Of Windはジェネシス専属調律師への復帰を宣言したく存じます」


すらすらと連なる、余りにも涼に似合わない台詞に私は思わず彼を凝視した。
その表情は微かに強張っているようで、始めの笑顔は軽く引き釣っているように見えた。


「……元々ブラストには集会への出席義務は無いよ。小烏丸戦をボイコットされたのは痛かったけど、ね」
「申し訳ない、風邪をこじらせて使い物にならない状態でした」
「そう言われたら、何も言えないし。…それに今までの分を考えたら、誰も今の地位から君を降ろそうとは思わないよ」
「は…、良かった。」
「シムカはもう左君に捜して貰うように指示をしたみたいだけど…」


ブラストとしての言葉を伝え終わった為か、涼は最初の砕けた口調で安堵の声を漏らした。
だけど、スピの次の言葉に涼は盛大に顔を歪ませた。


「知ってる、とりこをフェアレディアで拾ってからココに来ようと思ったら。居たよ。」
「類は友を呼ぶんじゃない?」


背景にダイヤモンドダストが吹き荒れている様がなければ、仲の良い友人に見える…んだけど。


「で、……………ひとつ屋根の下ってどういうことだろう?」


視線を戻せば、黒々しく笑うスピ。
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