□10 B -夜空の赤とX-
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「………っ」
羽が何枚か口の中にインした気がする。
腕で顔をガードしていても舞い上がる羽の量には到底及ばず。
半ば無抵抗で止むのを待っていると、視界が開けてきた。
さっきまで居た廃墟の屋内(といってもほとんど崩れていて屋外とたいして変わらない)、という雰囲気ではなく本来の用途が屋上だったのだろう。
鮮血の月が何にも遮られることなく見えている。
「…誰?」
舞い上がり切った羽が落ち出す頃、よく知った声が柔らかく空気を揺らした。
「…」
「…」
「…な、なんで半裸なのっ!服!服着てっ!」
「小鳥ちゃん…?!」
服を着てと言ったのに、スピは手に服を掴んだまま寄ってくるものだから、恒例になりつつある後退り。
「天使かと思ったよ」
凡そ天使に会ったとは思えない暢気さ。後退る私にスピは苦笑いながら肩を竦めて、おもむろに服を握りしめた。
…そのまま、雑巾絞り。
「ごめん、汗だくなんだ」
スピの言う通り、絞られた服からはポタポタと雫が落ちた。
「練習、してたの?」
「あぁ、うん。…下でバトルしてたでしょう?見てたら僕も走りたくなっちゃってね。ちょっと………抜けちゃった、っくしゅ」
「風邪ひいちゃうよ」
ジャンパーのファスナーを下ろしてスピに着せようとすると、いつの間に近づいたのか手のひらごと掴まれて「代えがあるから平気だよ」…そういうことらしい。
「じゃあそれ着てクダサイ」
「あ、コレ…僕が昔着てたやつだ」
そうですか、スルーですか。