□20 D-不穏の音が鳴る-
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裾を交差した両手で引っ張り上げる。
「傷だって、涼のつけたヤツはひとつもないですよ」
頭の上まで脱いだロンティはタイル貼りの床に投げた。
「なんなら下も脱ぎます?」
「いやに饒舌にだな」
「!」
「初めて見たときは、一言も話さなかったろ。二回目もそうだ」
「…もう、着てもいいですよね?」
「――――…髪は、誰に触らせた」
静かに淡々と紡ぐ声。
それが突然冷たく色を変えて。
同じように冷たい指が、首を掴んで旋毛まで髪を逆撫でる。
その声色が、すべて知っていると語っているにも関わらず、刑事さんは言葉を使う。
「ジェネシス、いやブラストに入りやがったな」
スルリ。もう片方の指が触れた先は私が刑事さんと出会ったあの時のように、疼く熱を孕んでいるような気がした。
「涼を、信頼、してるからです」
「…よく言ったもんだ信頼なんて。お前が信頼の意味を理解してるとは思えねぇ」
触れた部分にグッと力を込める、その刑事さんの態度に、責められている様な気がした。
信頼。
私が語っていい言葉じゃないと。
信じて頼るなんて、私は今までしてこなかったから。
それに値する人が周りに存在しなかったから。
信頼。
赤ちゃんが親に向けるような、満たされた関係。
生まれて間もない彼らができるように、私も当たり前のようにできていたはず。
あの、研究さえ、あの人達の耳に入らなければ。
私さえ、結果を出していれば。
役立たずでなければ。
彼らは信頼して、くれた。
(バカじゃねぇの。)
昔に戻りそうになる私の思考を引き留めたのは、知り合って間もない頃の涼の声だった。