□18 C -優しい仲直り-
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ドアを閉める後ろ手ごと、すっぽりと。
抵抗とか、腕を引かれる感覚だとか感じる暇もなかった。


「待ってって、言ってるのに」
「ご、めん」


そんな感覚、ないはずだ。
私が引かれたんじゃなくて、スピが病室に入ってきたのだから。

テリトリーに入られた動物みたい。
全然落ち着かない、お腹に回された腕も、ドアノブを握ったままの手のひらを握る熱い手のひらも。


「……退院するまでは、我慢、って」
「…?」


お腹の腕が脇の下を潜って、熱い指先が顎を撫でる。


「っ」
「存外僕は、…子どもみたいだ」


そのまま頬にかかった髪を掬われて、こめかみにゆっくりとしたリップ音が落ちる。
その後に熱い息。

まだ離れない唇に、廊下のキスの雨とは何か違う事を悟った。


「とりこ…キスしても、いい?」


…デジャヴ。
ガードレールの時と同じ。


「、…………こ、濃い…ヤツ?」


ムードもなんにもないな、私!
ただ聞き方が分からなかったから、あの感覚を頼りに表現すれば、スピは至極真面目に答えた。


「女の子がそういう聞き方は、どうかと…」
「…うるさい……」


そう言われて唇を噛むと、――なんで今まで気づかなかったんだろう。
唇、カサカサだ…


「僕は好きだよ?」
「また、歯が浮くような、…ことばっか……っふ」


話してる最中だってば!
普段なら、後ずさるだけなのに。

唇を愛撫する指が熱すぎて、体も脳も言うことを聞かない。
また、この感覚…
体の真ん中が痺れて、痛いくらい疼いて。


「…っ唇、カサカサ…でしょ…?」
「すぐ治るよこれくらい」
「すぐ、って…っん!」


振り向いたのがまずかった。



…違った、まずくなんてない。
望んでた…、通りになった。


「っ…あ」


無理な体勢を立て直そうと、脚に力を入れる。
一瞬だけ、駄々を捏ねるみたいにスピの手が抵抗したから。

――足腰の弱さは、ATを始めて数ヶ月程度では解消しないらしい。
脚だけ力が抜けて、思わず頬を捉えているスピの腕にしがみついた。


「信用ないなぁ」
「…だって……!イキナリだったし!」


気づけば足は床から離れていて。
もしかしてバランスを崩す前に抱き上げてくれたのだろうか。

状況を把握してから、精一杯押し殺した声で凄むと、もう一度ささやかなキス。


「ベッド、行こっか…?」
「…うん?」


言い切った後で、しまった!とでも言うような表情をするスピに首を傾げる。


「………………今のはヤラシイ意味じゃないです」
「…」


えええ…!
それは意識しろってことですか?!


だってそれが分からないってほど初じゃない、私。
(バイトが突然休みになった日に偶然見た洋画で、マッチョな俳優さんが)「ベッド行こうか」(って言った後、セクシーな女優さんと色々してたから)の意味くらい分かるもん……


「……えっち」
「!、違っ…!」
「ちょっ…静かにしないとっ」
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