Novel FA

□愛ノ形
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机には承認印を待つ書類が積み上げられ、やってもやっても減らない。気が滅入ってしょうがなく、襟元を緩く広げて溜息をついた。



僕はアルフォンス・エルリック。

リゼンブール国の一応王子をしている。



遠くを見て休憩していると、何処かからか足音が聞こえてくる。
段々足音は大きくなる。
すぐ近くで止まったかと思えば、勢いよく扉が開いた。

びくっと身体を縮こませれば、それは肩で息をするエドワード・エルリックの姿だった。
思わず立ち上がり駆け寄る。


「ちょっと……姫!ドレスなんだからもっとおしとやかに歩かないと!」
「うるさい、うるさいうるさーい!!!」
セットされていた髪をむしり叫ぶ。

「だー!アル!お前まで姫呼ばわりすんな!!!」

「えーだって姫だし。すごく似合ってるよ」
満面スマイル。

「無理だ無理なんだって!!!なぁんで俺がこんなヒラヒラドレス着て姫様演じなきゃいけないだよ!アル!やっぱ交代、お前が姫役な!」

「ダメ。僕髪短いじゃん?だからむーり」

「ぬぁぁぁぁ……!」
兄さんは再び頭を抱えて発狂し始める。

「そもそもこれも!あんのクソ親父が急に蒸発なんぞしやがるからッ!」

僕はまぁまぁと窘める。
「姫姿評判よかったんだからいいんじゃない?」
「そんな問題じゃないわー!!!そもそも一国の主が蒸発とか聞いたことねーし!!!」



そうこのリゼンブール国はかつてない窮地に立たされている。
母さんが急病で急死。これだけで城内はひっくり返したような大騒ぎだったのに。
加えて父さんまで消えてしまったのだから、僕たちは母さんの死を哀しむ暇なく一国を任されてしまったのだ。


まさに暗転。

二人の喪失は大きく、国民の不安を和らげる為、僕らは父と母が居るように国を守らねばいけなくなった。

それがこの結果。
城の者は尽くす限りのサポートをしてくれている。

でも僕たちの不安はそう簡単に拭えそうにない。右も左も分からぬ状態で一体何ができるのか。



「姫、一緒にがんばろう!」

真顔で鼻息荒くそう語ると兄さんも鼻息で返す。

「おう弟よ!てかちゃんと兄さんって呼べ。姫は死んでもヤダ」

口を尖らせる兄さんにクスクス笑う。








僕たちはたった二人の兄弟なのだから。
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