Novel SH
□冬の訪れ
1ページ/2ページ
深い暗闇で僕はひたすらもがいている。
もがいてももがいても、進まない歯痒さ。
無力さ。
脱力感が押し寄せて抵抗するのを止める。
苦しい。
逃げたい。
投げ出したい。
嗚呼、誰か――――
「……ちゃん、Revoちゃん」
うっすら意識が戻ってきて瞳に世界が映る。なんら変わりない僕の乱雑した机。
「じま……?」
「また机で寝ちゃって。根詰めすぎだよ」
じまんぐはふぅと息を吐く。
「気持ちはわからないではないけど……Revoちゃんは自分の信じた道を行けばいいと思うよ」
じまんぐの労いに僕は目線を逸らす。
視線の先には引っ掻いたように落書きされた紙の山。元々そこには音の調べが刻まれていたはずだが、落書きで黒く塗り潰されている。
僕はくしゃりと紙を丸めると肩を震わせた。
「僕がこんなに弱いとは思わなかったよ……大事に育ててきたSoundHorizonも終わりかな……」
「そんなに悲観しなくてもいいじゃない……!」
「メジャーデビューと共に落ちる、よくあるパターンだよ」
「歌い手が変われば音楽は変わる。受け入れ方は人それぞれ。当たり前のことでは?」
僕はコツコツと机を叩く。
SoundHorizon二期の始動。それは僕の納得のいく移行だったが、ファン全員が飲み込んでくれるはずもない。それはわかっていた。
新しいスタートで『少年は剣を……』をリリース。でも予想以上に混乱は大きく、過去を渇望するファンは多かった。
一期が良い。歌姫を戻して。
「ネット上で育ってきたSoundHorizonがネットの口コミに影響されるって皮肉だな」
両手で顔を覆い、ゆっくり深く息を吐く。次の地平線を生み出すのがこんなにも苦しいだなんて。
ある程度あった自信が消えてなくなったように、次を出せば見放されてしまうのではないか。そんな不安がどうしてもついてまわる。
わかっている。そんな心配をしたところで、何にもならないのだと。
ひたすら音楽に向き合って納得のいくものを届けるしかない。
しかし。
浮かんだメロディーは陳腐なもので、歌詞は月並みだ。全てが気にくわない。
僕が紡ぎたかったのは何だったのか。それさえも見失ってしまった。
「まぁRevoちゃんはできる子だって信じてるよ。いいものが生まれる苦しみは君が一番よく知っている」
「じまんぐまで僕にプレッシャーをかけるのか?」
抗議たっぷりの表情を向ける。
「まぁまぁ。肩の力抜いて散歩でもしたら?」
じまんぐは僕の肩を強めに叩き、にこやかに部屋を去って行く。
「まったく……」
うーと僕は背伸びをして外に出た。