Novel SH

□黒き剣
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深奥の暗い闇へ、何処までも――




「近ィ……モゥスグ、モゥスグダ……」



瞳を閉じると意識は彼方へ。浮かんでくるのは水面の月、広がる血の色。


己がそこに居なくとも血の匂いがするようだった。華が咲いたように水に溶ける鮮血。


意識がぶれ、誰かの絶叫がする。


それは痛々しく悲痛な叫び。


息仔ヨ――



哀しみも憎悪もθが全て包み込んであげよう。


何レ、何レ、我ノ器トナル者ヨ……




再び意識が激しくぐらつき、向こうの世界を覗くことが不可能になった。
ウッと呻き、頭を押さえる。


「θ様……?」


「大丈夫ですか?」

従属の者が心配そうにこちらを見ていた。

「問題ナィ……時期ガ近ィノダ」



ふっと遠くを見て、再び意識が向こうに引っ張られる。器の心が不安定なせいだ。
……亡き愛しき者を前に息仔は何を恨み憎み、どの道を征くのか……



意識は完全に向こうへ移行し、目の前にはエレフセウスが憎悪に満ちた目で世界を見ていた。
その紫の瞳はいよいよ死を濃くし深みへ堕ちてゆく。



我はほくそ笑み、更なる死を生み出す喜びに溢れる。

我が手を交差させると血に濡れた剣が現れた。

赤黒い血に染まった一つの剣。



エレフセウスは迷いなくその剣を手にとり、真っ青な空に切っ先を向けた。



さぁ存分に血を吸わせるがいい。




復讐劇の幕があける――



紫眼の狼、アメテュストス、奴隷解放戦線を率いて進撃。



その死に染まった瞳に敵はおののき、瞬く間に戦場は血の海となった。




黒き剣は将軍の手になり多くの生き血を吸った。



やがてその剣は母を殺め兄を殺め、争いは一時休戦する。

「Moiraよ……これが貴柱の望んダ世界ナノカ!」
アメテュストスいやエレフセウスは歴史の闇に沈む。


冥府の扉は開かれ、死人戦争のハジマリを告げる。



復讐により生み出されし剣。肉親の命を運びし剣。


剣は何処へとゆくのか――
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